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第28話 浮遊天庭セレスティア

 船着き場は、海で見られるものと大した変わりはなく、大きな違いといえば空の青か海の青かといった点だけだ。

 港はとても栄えているようで、城下町の表通りを出歩いたときと遜色ない喧騒が響いてくる。



 船着き場のすぐ近くにある家々の軒先には様々な看板が立てかけてあり、船の上からでもよく見えた。

 大きく息を吸ってみると、透き通る空気が体内を優しく撫でていく。



「それでは皆さん、私についてきてください」


 

 先導するクロウ先生についていくと、賑やかな港町には目もくれず、足早に歩を進める。

 セレスティアの人たちは皆表情が明るく、近所の子どもたちを見守る大人のような優しさに満ちた目で見てきては、たくさん声をかけてくれた。


 

「これから迷宮入りだろう! 頑張れよ!」

「ちゃんとひと皮むけて帰ってくるんだよ!」

「気を付けてなー」


 

 お出迎えムード満載といった感じだ。担任が足早に歩くものだから、ろくに会話も出来ずに俺たちは笑顔を返すことしかできない。

 暫く歩くと喧騒も聞こえなくなり、閑散とした森の中にある整備された道を歩いていた。

 森に入ってから数分もした頃だろうか、開けた場所にぽつんと建つ旅館のような建物の前にでた。


 

「さあ、今日はここで一泊します。各自自分の割り当てられた部屋に荷物を置いて、大広間に集まってください」


 

 俺はミラと顔を合わせ「じゃあ、後で」と挨拶をして自分の部屋に向かう。

 内装は昔ながらの旅館そのものといった感じで、この世界に来てから最も日本らしさを感じることが出来た。

 集合場所になっている大広間も畳が敷き詰められていて、妙に落ち着く。


 

「では、これで皆さん集まりましたね。うすうす気づいているとは思いますが、あなた達にはこれから始まりの迷宮に入ってもらいます。私がこれから発表する三人一組となって、迷宮の最奥を目指していただき、そこにある祭壇に置いてある踏破の印を持って帰ってきてください」



 クロウ先生の手には木札が握られており、踏破印と文字が刻まれている。

 いよいよ、迷宮だ。実際に魔物がいるとあって先程までの弛緩した空気はもう微塵もない。

 それもそのはずだ。飛行船での聞き込みでわかったことだが、どうやら王都出身のものはそのほとんどがまだ実際の魔物と戦ったことがないらしい。



 王都の近くは安全を確保するために完全に魔物が排除されている上に、子どもを連れていける範囲にある街や村の近辺もほとんどの魔物は駆除され、サナリ村のような辺鄙な場所にあるところまで行かないと出会えないという。

 映像や資料で見ているとはいえ、対面するのは怖いはずだ。なんせ、相手は混じり気のない殺意を向けてこちらにやってくるのだから。



 「では第1班、カイン=デールナー、シアン=ヴィーリンス、カイネ=ヴィーリンス」


 

 担任からの班の発表が行われる。ミラと同じ班でないと一緒に捜索するのは難しくなるとおもっていたが、その心配は杞憂に終わる。


 

「第7班、ハルルギ=シオン、ミラ=オルピクソン、アリア=リエール」


 

 ミラと一緒だ、と安堵したのも一瞬、もうひとりがアリアとは……。

 おれたちは一抹の不安を覚えながらもその後の発表を聞き終えるとさっそく、その宿を出ることとなった。


 

 宿の横には更に奥に続く道があり、そこから数分歩いたところで、またも開けた場所にでた。

 中心には三メートルはあろうピラミッドのような建造物が立っており、それを中心とした7つの支柱が、円状に等間隔に並べられている。

 そのどれもが石造りに見えるのだが、まるで大理石のような光沢と精緻な意匠が異様な雰囲気を放っていた。


 

「それでは皆さん聞いて下さい。第1班から順に迷宮に潜ってもらいます。潜り次第、あとは自由に最奥を目指してください。そしてこれを」


 

 クロウ先生がポケットから何かを取り出した。それはおしぼりくらいの大きさの瓶で、中身は特に何かが入っているわけではない。

 瓶の側面には、魔法陣が刻まれている。


 

「これは緊急脱出用の魔道具、風駆かぜかけの小瓶です。自分たちの力で攻略不可、または帰投が困難であると判断すれば地面に叩きつけて割ってください。内包された風魔法が出入り口まで運んでくれるようになっています。それに迷宮内での行動は、魔法によって常に視認していますから、存分に実力を示してください」


 

 さすが国一番の教育機関といったところか、安全面にもぬかりがない。

 だとすればますます、リンを攫ったやつが何を考えているのかがわからない。

 それに、始まりの迷宮に来いと書かれていただけで、そこからはどうすればいいのか指示は今のところない。

 とにかく今は、純粋に最奥を目指すほかない。


 

「では第1班、中へ」


 

 担任に呼ばれたカインたちは風駆の小瓶を手に、建造物の中央に見える、地下へと続く階段へ足を踏み入れていった。

 そうして2班、3班と続き、俺たちの番はすぐにやってきた。


 

「ミラさん、これを」


 

 そう言われて、ミラが風駆の小瓶を受け取った。


 

「君が実戦経験が一番豊富でしょう。周りの状況をしっかりと見て、使い時は慎重に見極めてください」

「はい、クロウ先生」


 

 ミラは大事そうにポケットに小瓶をいれる。それを見てなぜか、アリアは不服そうに先生を睨んでいた。

 

 

「では、気を付けて」


 

 俺達は先生の言葉を背に受けて、地下へと続く階段を降りていく。

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