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第27話 情報収集

 皆が魔法船に乗り込んだことを確認すると、船体はゆっくりと上昇し始めた。



「それでは皆さん、天庭につくまでは自由時間とします。決して危険行動は起こさず、船員の方々に敬意を払って船内を自由に見て回ってください。それでは、解散!」



 担任がそう言うと、皆蜘蛛の子を散らすようにバラけていった。

 その場に残っていたのは、示し合わせたように俺とミラの2人だけ。


 

「シオン君は、これからどうしますか?」

「俺はそうだな、天庭のことも迷宮のこともよくわかってないから、いろんな人に話を聞いてこようと思う」

「そうですね。私も知ってる情報はあるといっても、所詮は片田舎に流れてくるような手垢のついたようなものばかりですから」



 そうして俺達はまず、クロウ先生へと話を聞くことに決めた。クロウ先生は解散命令を出した後、なにやらお偉いさんっぽい人と話していたようで、一区切りついたところを見て声をかけた。


 

「先生、少しお時間よろしいですか」

「おや、ミラさんではありませんか。それにシオンさんまで、どうしました?」

「これから行く、空庭と迷宮のことについてお聞きしたいんです」

「校外学習に関わること以外なら、何でも聞いて下さい」

「じゃあ、はじまりの迷宮について教えていただけませんか?」


 

 ミラが直球に質問を投げかけると、穏やかだった担任の顔に一瞬だけ陰りが差した。


 

「……もしかして、これからのことをもうご存知なのですか?」

「いえ、それは何も……。ただその、なんというか、母が昔、セレスティアの始まりの迷宮に行ったとよく話を聞いていたもので、もっと詳しく知りたいんです」


 

 とっさの切り返しでの言い訳。しかしそれが効果的だった。

 担任の顔から陰りは消え、再び柔和な笑顔を取り戻す。


 

「せっかくです。シオンさんは記憶がありませんから、まずは迷宮とはなんなのかについて、話しましょうか」


 

 担任は息を整え、甲板にある欄干に手をついて遠くを眺め始めた。



「かつて魔王がいた時代、我々の土地に侵略してきた際に拠点とするために作られたものが迷宮です。魔族は拠点の建設と侵攻を繰り返し、自分たちの土地を広げていきました。魔王が出現してから10年で、魔族は世界の6割を占有していたといいます。しかし初代勇者の登場により、今度は人間側が魔族に奪われた土地を侵攻する立場になりました。その時の防衛策として、世界各地にあった拠点を強化し、人間が侵入しずらくするために罠を仕掛けたりと、要塞としての役割を強めていったのです。はじまりの迷宮は、我々人類が初めて魔族から取り返した土地として、今はこうして平和の象徴として空高く浮遊しているのです」



 空の上で開かれる唐突な歴史の授業。

 


「では魔物たちの出ない迷宮ということなのですか?」

「いえ、まだいますよ」

「どういうことなんですか。平和の象徴なのに……」

「いるといっても、どれも低位の魔物だけですよ。国が管理していますから、完全に解剖済みです。だから魔法使いとして最初の訓練にはもってこいなのですよ。安全が確保されていて、それでいて実戦に近い経験が詰める。経験の浅い魔法使いにとって良い訓練場なのですよ。だからこうして私達も……あ」


 

 そういえば、校外学習の内容は生徒には詳しく知らされていなかった。

 担任は口を滑らせてしまったといった様子で、口元で人差し指を立てる。

 なるほど、迷宮を探索するとか、そういったことだろう。

 


「ほ、他の皆さんには、内緒にしておいてくださいね」

「もちろん、誰にも言いません」


 

 担任の言う通りでいくなら、始まりの迷宮とは極めて安全なところであるということだ。

 リンを攫ったヤツは、どうしてわざわざそんな場所に俺たちを呼び出したんだろう。



 もしも中でなにか異常があれば、憲兵がすぐに駆けつけられる場所に、どうして呼びつける必要がある。

 準備の時間を使って、なぜリンが攫われたのかを考えていた。リンが攫われたのは、勇者である俺を安全地帯である王都から遠ざけるためだとおもっていたが、それも間違いなのだろうか。


 

 ますますわからない。一体、リンを攫った奴は俺たちをどうしたいんだ。

 今考えたところでそれがなにかわかる術はない。今はとにかく情報を集めるとしよう。

 俺たちが情報をさらに集めようとその場を立ち去ろうとしたときだった。


 

「あらあらお二人さん、アンタ達もあんな迷信を信じてこれからの迷宮探索に心踊らせているタチからしら?」

 

 

 声音に混じるトゲトゲしさから、それが誰かは見るまでもなかった。


 

「なんだよカイン、迷信って」

「あら、知らないのかしら? なら、ほら」


 

 そういってカインは俺の前に、まるでネイルを見せびらかすように手の甲を持ってきた。


 

「どれか好きな指をしゃぶりつくせば教えてあげないこともないわよ」


 

 俺は無言のままに差し出された人差し指を手の甲側へとグイッと持ち上げた。

 カインはその場で体をよじらせ、体制を崩す。


 

「ほんとあなたって人は……! たまらないオトコね」


 

 どうやらこいつにとって痛みはご褒美らしい。俺は容赦ない軽蔑な眼差しを向けるが、そんなのは全く意に介さず、俺の触れた人差し指を恍惚とした表情で眺めている。

 目の間で行われる奇行に悪寒を感じずにはいられず、それはミラも同様のようで、俺の背後に半身を隠して覗くように見ていた。


 

「イイわ、教えてあげる。今年の校外学習は始まりの迷宮での訓練ってのは、もうわかるわよね」


 

 なんだよクロウ先生。もう言わなくてもバレバレじゃないか。


 

「最近ね、国が管理している他の迷宮から隠し財宝が見つかったのよ。完全に構造を掌握していたはずの国が管理する迷宮から見つかった財宝ってことで、他の迷宮にも財宝があるんじゃないかって、かなりの噂になってるのよ」

「へー、そんなこと全く知らなかったな。それに、財宝はまあ、興味がないといったら嘘になるけど、そこまでだな」


 

 日本に住んでいた頃なら金は欲しかったけれど、この世界で金がたんまりあったところで腐らせてしまうだけだ。

 そこまで思ったところで、ファリス孤児院のことが頭をよぎった。

 お金があったらひとまず、孤児院に寄付するだろうな。そういった意味で言えば財宝は多少気になるところではある。


 

「他の生徒たちはその話題でひっきりなしよ。あなたほどに地位も名声も名誉も持っていながら無欲だなんて……ああ、ゾクゾクしちゃうじゃない!」


 

 ……これ以上こいつから聞けることは何もなさそうだ。

 俺たちは公然の場で恥ずかしげもなく嬌声を発する同級生を無視して、情報収集に務めることにする。


 

 しかしその後、船員たちにも迷宮のことを聞いてはみたが、これといって有益な情報は得られなかった。

 そうして時間がすぎて、気がつけば遠くに見えていた天庭は目と鼻の先まで迫ってきていたらしい。

 誰かが言った「あれ見て!」と、いう声に反応して振り向くと、目的地を確かに捉えることが出来た。


 

 青く広がる大空に、雲海を突き抜けて浮かぶ幻想的な光景に思わず息を呑む。

 庭というよりは島という言葉が似つかわしいほどの雄大な浮遊島。切り立った岩の基盤の上に築かれた円形の石壁。

 その石壁の内側には赤茶色の屋根を持つ家々が立ち並び、中心部分には緑豊かな森が広がっている。

 

 

 しかし、色んな意味で期待をふくらませるクラスメイトたちとは違い、俺の胸中は不安でいっぱいだった。

 きっとそれはミラも同じだろう。

 飛行船は船着き場へと無事停泊させると、クロウ先生が声高らかに言った。


 

「さあ、いよいよ上陸ですよ」

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