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第25話 慣例行事

 それから何度か、魔力をコントロールして焔玉を生成しては空に放つというのを繰り返し、ほぼ無意識に魔法を放つことが出来るようになった。

 ペンダントに魔力を流し込み三種の神器を出し入れするのも魔法といえば魔法だが、やはり王道は攻撃魔法だろう。



 それを自らの意志で放つことができるようになった。人目がなければ小躍りしていたかもしれない。

 高ぶる気持ちを抑え、剣を鞘に納める。これは大きな一歩だ。



 魔法を使えたことの嬉しさのことでいっぱいで、ミラのことをすっかり忘れていた。模擬戦はどうなっているだろうか。

 くまなく見渡したことでようやく、地面に突っ伏していたミラの姿が目に映り、気がつけば俺は走り出していた。

 

 

「ミラ!」


 

 うつ伏せになっているミラを抱き起こし、顔についている土を払う。体が痛いのか、苦悶の表情を浮かべながらうめき声を上げていた。

 ミラをこんなにしたのは……。

 振り向くと、そこには青髪の少女、アリアが立っていた。


 

「アリア……」


 

 無機質なままの表情でこちらを見るアリア。視線は俺ではなく、ミラに向けられてる。


 

「どうしてこんなになるまでするんだ!」


 

 声を張り上げると、まるで今俺の存在に気がついたかのように、反射的な速度で目線を合わせてきた。

 表情こそ代わり映えしないが、目線がほんの少し泳いでいるように見えたのは気のせいだろうか。


 

「し、シオンくん……」


 

 抱きかかえていたミラが目を開いた。俺はまた、何も助けになってあげられない自分の無力さを突きつけられているようで、ミラと目を合わせることが出来なかった。


 

「わ、私は大丈夫ですから、心配しないでください」


 

 よく見ると、周りにもミラと同じように怪我を負った者が多々見て取れた。

 先ほど担任がカインとやってみせた模擬戦闘は、2人の間にかなりの実力差があったからこそのもので、実力が拮抗する者同士の魔法を使った戦いはこれが当然なんだ。



 模擬戦闘とはいえ、魔法とは、命を奪う事ができる手段なのだ。

 俺は改めて、この世界で生きるということ、戦うということが何を意味するのか、その一端を再び思い知らされた。


 

「シオンさん、少し離れててください」


 

 後ろからやってきたクロウ先生がミラの頭上で手をかざすと、手のひらから光の粒子のようなものが降り注ぐ。

 粒子がミラの体にふれると、先程まであった傷がみるみる閉じて、やがて完全に閉じきってあとすら残らなくなった。


 

「とりあえずの応急処置はしておきました」


 

 ミラの顔からも苦悶の表情が取れて、少しだけ安らかになっている。

 とりあえず一安心してほっと胸をなでおろした。

 アリアに対して、ムカついていないといえば嘘になる。

 しかし、ここは俺が生きてきた日本ではなく、何百年と戦争が続く異世界なのだ。



 俺の尺度でアリアを批判していいはずはない。

 込み上げてくる怒りをぐっとこらえ、立ち上がる。


 

「いきなり大声をあげてすまなかった。俺が筋違いだった」


 

 謝意を込めて頭をさげたが、想像通り、これと言った返事はなかった。

 嫌味の1つでも言われなかっただけ今は良しとしよう。

 俺はミラに肩をかして、一緒に腰を下ろした。

 なぜかおれたちを基準にして他のクラスメイトたちも整列しはじめ、あっという間に錬成場に来たときと同じ配置になっていた。


 

「午前の模擬戦闘はこれまでとします。お昼までは、怪我がある人は医務室へくるようにしてください。それから、午後からは一泊二日で浮遊天庭セレスティアへ行きますので、午後のチャイムがなるまでに準備を済ませて校庭へ集合してください」


 

 浮遊天庭セレスティア? 一泊二日?


 

 担任がなんの前触れもなく言うその言葉に理解が追いつかない。

 俺は助けを求めるように周りをみたが、他のクラスメイトたちはむしろ、嬉々とした表情で妙に浮足立っているようにさえ見えた。


 

「ミラ、これって一体どういうことなんだ。いきなり一泊二日とか、浮遊天庭とか」

「そういえばシオン君は知らないですよね。ノーラン魔法学院の恒例行事ですよ。入学して一ヶ月以内のどこかで、一泊二日の校外演習が行われるんです。毎年どこに行くかは当日まで知らされないんですよ。それに浮遊天庭セレスティアって言えば、超人気スポットじゃないですか! 私、元気が湧いてきました」



 先日の青果店で見せたときと同じ天真爛漫な笑顔を浮かべるミラ。数分前まで魔法戦闘でボロボロになっていたとは到底思えない。

 一時も気を緩められないこの世界で、唯一心安らげる瞬間と言ってもいいかもしれない。

 ミラの笑顔にうっとりしていると、いつの間にか場は解散となり、各自散らばっていく。


 

「では私は医務室に言ってきますね。シオン君は、よければリンの部屋を訪ねてもらえませんか?」

「様子を見てこようか」

「リンは学内のイベントを楽しみにしていましたから、きっと校外学習のことを聞いたらどんなに体調不良だって飛び起きますよ」


 

 ミラはそういってくすりと微笑を浮かべる。

 

 

「わかった。俺が叩き起こしてくるから、ミラは治療に専念してくれ」

「ありがとうございます、シオン君」



 ミラがここまで心配してくれるなんてと、ほんの少しだけ嫉妬心が覗いてくる。

 俺にもしものことがあったら、こんなにも心配してくれるだろうかと考えたところで、王様と謁見した日のことを思い出した。

 ミラとリンは俺をことを心から心配してくれてたじゃないか。

 

 

 改めて、せてめ2人を守れるようになりたいと強く思った。

 


 俺はミラに言われた通り寮に戻ってリンの部屋へと向かった。そういえば、いつも迎えに来てくれていたから、こちらから出向くのは初めてだ。

 扉にかけられた番号札を頼りに少し探すとすぐ見つかった。


 

 校外学習のことを聞くとさぞ喜ぶだろうなと期待を胸にドアをノックする。

 しかし返事はない。

 もしかして寝ているのだろうか。



「リン、シオンだ。起きてるか?」


 

 声をかけてみたがそれでも返事がない。よほど深い眠りについているのか、このまま眠らせておいたほうがいいのでないかと思ったが、ミラの頼みということもあって手ぶらで変えるわけにはいかない。

 それに仮に寝ていたとしても、きっと何も言わずに校外学習に行ったとなればリンの怒りを買うことになるのは容易に想像出来た。


 

 俺はほんの少しの希望にかけて、ドアノブに手をかけ回してみた。

 すると一切の抵抗なくすんなりとノブは回り、ドアが開いた。


 

 部屋の作りは俺と全く同じで、家具の配置もそのままだ。

 部屋の奥にベッドが見えるが、そこにリンの姿はない。トイレにでもいるのかとノックして扉を開けたが姿はない。


 

 許可なく立ち入っていることへの引け目を感じつつも、胸中でだんだんと膨らむ違和感が足を進めさせた。

 ベッドをよく見ると、かけてある布団に少しの膨らみがあった。


 

 俺は驚かせてやろうと、その布団を勢いよく剥がした。しかしそこにリンの姿はなく、1枚の紙が不自然に置いてあった。

 紙を取り両面を見るがとくにこれと行った文字も書いていない。何かおかしいと数秒じっと見つめていると、急に文字が浮かび上がってきた。


 

「な、なんだこれ……」


 

 文字の羅列はやがて意味を成していく。そこには確かにこう書かれていた。


 

 『リンフォード=フォーグナーの身柄は預かった。助けたければ浮遊天庭セレスティアの始まりの迷宮にこられたし』

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