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第24話 魔法の使い方

 担任の背後にそびえる壁が徐々に崩壊すると、中心ではカインが仰向けになって地面に倒れていた。


「それと、魔力の調節も慎重にしなければなりません。戦闘中の魔力切れは死を意味します」


 担任はカインの下へ歩み寄ると、肩を貸した。俺といえば、様々な感情が混在していて心臓が力強く脈打っている。

 眼の前で繰り広げられた魔法戦の迫力に、心が踊らずにいられない。

 同時に、入学試験の日のことを思い出していた。

 あのときは運良くカインの焔玉を打ち返せたが、今の戦いぶりをみるに、真剣勝負では決して敵うはずもないことを思い知らされた。

 それでも、俺だって、これから努力すれば今みたいに魔法を使いこなせるようになるのだろうか。

 今の気持ちがなんとも言えなくて、ミラの方をみた。

 ミラは真剣な表情で、今もまだペンを走らせてメモを取っている。


「あとでリンにも、教えてあげなきゃですね」


 その言葉を聞いて、言いようのない心のざわつきは平穏を取り戻した。

 俺はリンのことなどすっかり忘れて眼の前の光景に釘付けになってしまったが、ミラはリンのためを思ってずっとメモを取り続けていたんだ。


 きっとミラだってしっかり目に焼き付けておきたかったはずなのに、こんなときでも誰かのことを思って自制できるなんて、誰にでもできることではない。


「そうだな。あとでリンの部屋に行って見せてあげよう」


 ミラは「はい」と屈託のない笑顔を俺に向けて返事した。

 そのあまりの可愛さに、さっきとは別の意味を持って、鼓動が早くなる。


「先生、その基本にはもうひとつ付け加えたほうがいいかもしれません」


 突如、観戦していたクラスメイトの中から冷たい声が聞こえてきた。

 声の主アリアは、カインに肩を貸してこちらに向かってくる担任に対するように一歩前に出た。

 その一歩が地面についた瞬間、突如上から強い力で押さえつけられ地面に倒れ込みそうになる。

 視線を上げると、先程まで授業をしてくれていたクロウ先生も、観戦していたクラスメイトも頭が垂れてなんとか地面に倒れないように踏ん張っていた。


「属性云々の前に、魔力量に絶大な差があるときは、戦わない、とか」


 言い終えると、急に体が軽くなった。担任の額から冷や汗がポツリと流れ、苦笑いを浮かべる。


「そ、そうですね。それも、付け加えておきましょう」


 担任はカインを地面に座らせると、汗をぬぐって俺たちの方へ向き直した。


「そ、それでは、2人一組を組んでください。シオンさんは私と」


 担任からの直接指名が入り、緊張が走る。

 カインに圧倒的な実力を見せつけたクロウ先生と、魔法のまのじも知らない俺が――。

 各自2人1組を組み、練成場に等間隔にならぶ。

 どうやらミラの相方はアリアのようだ。はたから見ていたが、ミラから申し込んでいた。

 俺も並ぶのかと思ったが、なぜだか俺と担任は等間隔に向かいあうクラスメイトたちを横から一望できる位置に立つことになった。


 「クロウ先生、俺たちは模擬戦を行わなくていいんですか?」


 「記憶のないシオンさんにとっては、まだ模擬戦は早いでしょう。伝導器に魔力を流し込むのはもうできると聞いています。つぎは、入学試験と同様、焔玉を放ってみましょう」


 言葉ではそういいながら、目線は模擬戦闘を始めようとするクラスメイトたちに向いている。ほかの皆は当たり前にできていることが今の俺にはできない。ながら指導でも仕方ないか。


 腰にかかった鞘から剣を取り出し、おもむろに構えをとってみた。

 ただならぬ雰囲気を感じてか、クラスメイト達の視線が集まる。


「皆さんは模擬戦を始めてください。ではシオンさんは、そのまま目を閉じてください」


 言われるがままに目を閉じると、それを皮切りにしたように様々な音が耳に入ってくる。

 皆が、ミラが、どのように戦っているか見たいけど今は我慢だ。


「補助しますから、体内にめぐる血液が熱を帯び、燃え盛るイメージを思い浮かべてください」


 言い終えると、背中の真ん中あたりに手のひらを押し当てる感触があった。

 体表に感じる手のひらの温もりは、やがて熱を帯びて徐々に体内へと入ってくる。

 熱はだんだんと温度をあげ、このまま放置してしまえば内側から燃え上がってしまうかもしれないとさえ思えてくる。


「その場に留めないで、循環させてください」


 暗闇に降りてくる担任の声を頼りに、体の中に張り巡らされている血管をイメージする。

 体の中心にある熱の塊を、血管という名の川に溶かして流していくイメージ。

 焼け焦げそうだと思っていた原因のそれは背中から腕、指を伝い、腹に流れて足先まで行って今度は逆の腕へ。

 そうして全身を駆け巡ると体中が暖かくなり、力がみなぎってきた。

 俺は自然と目を開き、クロウ先生の方を見た。


「さすが、体はちゃんと覚えていますね。そのまま体の熱を全て剣へ集約させてください」


 俺は再び目を閉じて、強くイメージする。


「剣と手が繋がっていることも決して忘れないでください。手に触れているその剣も、体の一部だと」


 剣を持つ手に力を込める。血管が剣の柄から鍔、刀身へと伸びてより強固に締め付けるイメージ。

 体の中の熱が引いていき、剣に流れ込んでいくのを感じる。

 次の瞬間、まぶたの裏の暗闇に、光が指した。

 思わず目を開けると、先程までは鈍色にきらめいていた刀身が、真の姿を現すがごとく光を放っていた。


 「剣先に意識を集中してください。そして炎の球体を作り出すのです」


 言われるがままに想像を膨らませる。

 カインが俺に対して放った焔玉と、聖儀の徒を名乗る男の、学長にはスカスカと評された二つの焔玉のことを考えていた。

 カインのように密度が濃く、チンピラ男のように巨大な焔玉。

 強く考えていたせいで、現実世界で俺に話しかける声にたいして反応が遅れてしまっていた。


「シオンさん、も、もういいです!」


 目を開けると、剣先には視界を覆いつくすほどの焔玉が出現しており、メラメラと燃え盛っていた。

 このままではだめだ。俺は必至に魔力を抑え込もうとするがもう時すでに遅し。

 体が妙に重い。このままでは、破裂してしまう。


「シオンさん、上です。上に放ってください!」


 俺は力を振り絞り、握っていた剣を思い切り振り上げた。

 すると、焔玉も勢いよく空に向かって飛んで行った。

 重くなっていた体は元の調子を取り戻し、空に向かった焔玉は雲を突き抜けた。

 直後、爆発した。

 数秒遅れて、地上にまで振動が届き、おもわずよろめく。

 当然周りは模擬戦の手を止め、一連のやり取りにくぎ付けになっていて、焔玉の爆発により一段落を察して、歓声を上げた。


「すげー! なんだ今の!」「あんな焔玉みたの初めてよ!」「さすが、勇者様だ……」


「……それが魔法を放つという感覚です。覚えていてくださいね」

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