第二百八話
ヴァルハントは逃げかえってきた部下の報告を受けて激怒していた。
「お前達は未熟な餓鬼にまんまとやられたというのか?」
「そうはいいますが・・・」
部下は反論しようとする。
「ええっい。黙れ!栄光ある我が艦隊に泥を塗りおって」
部下としては溜まったものではなかった。
命からから逃げかえってきたというのに怒鳴られる。
こんな理不尽なことはない。
それに、相手は舐めてかかっていい相手ではない。
艦隊戦のセオリーに忠実だった。
電子戦を仕掛けこちらの自由を奪い容赦なく攻撃してくる。
戦闘というのは生き物だ。
教科書通りの展開になることなどない。
だというのに相手はその教科書通りの戦術でこちらを打ち破ったのだ。
戦闘のプロだからこそ、相手の練度の高さがよくわかった。
「お前達は独房にでも入っていろ」
ヴァルハントはそう冷たく言い放つ。
有能な人物だと思っていたが実はそうではなかったのだとよくわかった。
人というのは余裕のない時こそ、その人物の素というものがでてくる。
野心だけが先立ち指揮官の器ではない。
仮に今回の戦争で勝ったとしても未来はないだろう。
同僚に拘束され連れていかれながらそんなことを考えていた。
俊はメティスから気になる情報を聞いていた。
マーキュリー家から持ち出されたヨルムンガンドがヴァルハントの拠点にいるらしい。
試作品のブラックホールエンジンを積んでおりその主砲の威力は侮れない物があった。
どこで投入されるかはわからないが警戒しないわけにはいかなかった。
幸い、試作品のブラックホールエンジンでは1発撃つだけでシステムがダウンする。
バンバン撃たれる心配はないがその情報を鵜呑みにするのも危険だろう。
改良されて改善している可能性もある。
「マスター。システムへの侵入は難しいかもしれない」
メティスがそう言ってくる。
ヴァルハントの艦隊のシステムは銀河帝国の物をベースにしている。
それに対してヨルムンガンドはマッドサイエンティスト達が独自に作り上げたシステムを採用している。
銀河帝国艦隊のシステムに侵入することを目的に作りだしたウィルスでは侵入しようとしても難しいだろう。
「う~ん・・・。対抗策はあるにはあるけど・・・」
俊の言う対策というのはヴィービルと信濃に搭載されているシールドなら計算上は耐えられるというものだった。
耐えられるといってもその負荷は凄まじいことになるだろう。
それを考えればあまり採用したい作戦ではない。
とはいえ、指揮官として艦隊の損害を考える必要がある。
気は重いが信濃に乗っているマーチェに命令するしかない。
万能戦艦ヴィービルを駆るドリトルは協力はしてくれているが部下というわけではない。
頼み込むしかないだろう。




