第二百六話
メティスの侵入があっさり成功した裏にはカラクリがあった。
ヴァルハントの配下の宇宙船の基幹システムは多少のアレンジは加えられているものの銀河帝国艦隊で運用されているものだ。
システムの基礎がわかっているのだ。
電子戦を専門に作られたメティスからすれば子供の遊びと難易度が変わらなかった。
仕込まれたウィルスも元から存在するシステムに寄生するように作られており発見は困難な代物だ。
ウィルスは想定通りに数を増やしじわじわとヴァルハント旗下の艦隊に広がっていった。
そうとは知らず、ヴァルハントは配下を責める。
「まだ、接触できないのか?」
「そうはいいますが、宇宙生物の数が多く・・・」
ヴァルハントの部下はよくやっている。
どこに俊の支配する宙域が存在するかはわかっている為、進路上の安全を確保しながら最低限の宇宙生物を排除しながら突き進んでいた。
ヴァルハントは辺境故に情報が入ってこないのを気にしていた。
唯一の情報源は情報艦を派遣し情報を持ち帰らせることだがリアルタイムの情報とは程遠い。
現在は相手に目立った動きはない。
だが、時間が経てば経つほど対策を立てられる時間を与えることになる。
計画していたよりも早く行動に移ったことにより、戦力の確保という面では不安があった。
人手は逃げてきた犯罪者がいるので利用すればいい。
だが、人手を活用しようにも宇宙船の数は限られている。
拠点の造船所では今も急ピッチで軍艦を造らせているがこの拠点は要塞として面が強く、耐久力と火力にそのほとんどのリソースを割いていた。
「とにかく行動を急がせろ」
ヴァルハントはそう部下に命じる。
下手に時間を与えれば自分が不利になる。
そう判断してのことだった。
それにヴァルハントの中では俊に対して侮りがあった。
皇族としてまともな教育も受けていない技術の未発達な地球で育った愚かな子供。
自分が負けるなどとは考えられなかった。
「ドリトルさん。お話って何ですか?」
「先陣を私達に任せてくれないかしらん?」
単刀直入にそう言ってくる。
「先陣をですか?」
俊の考えた作戦では初戦はAIの操る艦を投入する予定だった。
「電子戦を仕掛けるのでしょん?混乱した相手を蹴散らすだけでお金が稼げるなら傭兵は喜ぶわよん」
「それだけが理由じゃないですよね?」
俊はドリトルにそう確認する。
「信頼できる戦力は温存しておきなさいな」
「状況によっては裏切り者がでるってことですか?」
「有利なうちは大丈夫よん。でも、長引けばその可能性はあるわん」
ドリトルは絶対にないとは言わない。
今でこそ金融機関の支部長などをしているが、元々は歴戦の傭兵だ。
ドリトルの言葉には重みがあった。
「わかりました。先陣はお任せします」
「あまり時間がないからいくわね」
俊は去っていくドリトルに頭を下げる。
癖の強い人だがいつも困った時は助けてくれる。
今回も大いに助けられることになるだろう。




