第百九十七話
ヴァルハントは旗艦であるヴァルハラの指揮官席に座り天然物のワインを飲んでいた。
「ヴァルハント様。無事に着けそうですな」
「そうだな。あのまま帝都にいても負ける未来しかないのなら行動に移すしかない」
ヴァルハントは長期的に銀河帝国の支配宙域外に拠点を作っていた。
この事実は皇帝であるシュラバすら知らないだろう。
それぐらい厳重に情報を統制してきた。
今、ヴァルハントが動いた一番の理由は旗下に加えていた犯罪者達の迂闊な動きが原因だった。
自分達が危ういと判断すると多くの犯罪者が逃げ込んだのだ。
これではいつ露見してもおかしくなかった。
「計画は変わってしまったが勝ち目はある」
ヴァルハントの作っている拠点は資源が豊富だ。
宇宙生物が定期的に襲ってくるというデメリットはあるが裏を返せばそれは資源が自ら飛び込んでくるようなものだ。
戦力を増やしたいヴァルハントからすれば理想的な場所だった。
「それに、アルシェントの子倅もいるようだしな」
ヴァルハントの計画では大艦隊を俊の支配する宙域に派遣して捕虜にする計画だった。
自分の息子が捕らわれているのだ。
迂闊な行動はとれなくなる。
捕えることができればアルシェントに対する最大の武器になる。
自衛できる程度に艦隊は整備されているようだが、それでも自分の率いる艦隊の方が規模も練度も上なのだ。
この状況で負けることなどありえなかった。
「ヴァルハント様。そろそろ到着です」
「そうか。1ヶ月の休暇を与える。その後は計画通りに頼むぞ」
緊急招集をかけたのでろくに休みを取れていない部下もいる。
そのような状態で艦隊戦を仕掛けるほどヴァルハントは鬼畜ではなかった。
それに時間が増えれば増えるだけ自分の艦隊は数が増える。
勝ちを盤石にできるのなら1ヶ月ぐらいの猶予を与えるぐらいは我慢できる。
ヴァルハントは完全に俊のことを侮っていた。
地球出身のろくに教育を受けていないのだ。
マーキュリー公爵家の当主のカールが支援をしているといっても本拠地からは距離がある。
支援にも限界があるはずだ。
もし、こちらの動きを察しして艦隊を差し向けるにしてもワープ装置がないマーキュリー公爵家の船では3ヶ月ほどかかる。
それだけの時間があれば決着はついているはずだ。
俊という人質がいればマーキュリー公爵家も支配下に入るだろう。
脅す形で従うのでは油断はできないが戦争で先鋒を務めさせ疲弊させればいい。
カールが戦死することになればそれはそれで都合がよかった。
拠点にはカールから逃げだす形で匿っているマーキュリー公爵家の血縁者もいるのだ。
その者を当主に据えればマーキュリー家を完全に支配下におけるのだから。




