第百九十五
イクマはスーリャンの待ち構えているエリアに逃げ込んだ。
想定内ではあるが、逆にそれが不自然に思える。
アルシェントは見落としがないか素早く情報を確認する。
そこで、違和感に気がついた。
それはアルシェントが戻ってこなければ皇帝に最も近いと言われていた長兄のヴァルハントの行動だ。
1か所にとどまりずっと動いていない。
アルシェントは慌てて権限を使ってヴァルハントの端末にアクセスする。
プロテクトを解除し位置情報を確認すれば帝都で最も規模のでかい軍港にいた。
「やられた・・・」
アルシェントは完全に裏をかかれたことを悟った。
イクマの行動は目くらましであり本命は自分が艦隊を引き連れて帝都を離れることだったのだろう。
後ろめたいことがないなら堂々と申請して出航すればいい。
こうして情報を偽装して出航しようとしているということは、裏の目的があるはずだ。
何をするつもりかはわからないが帝位争いに関係していることは間違いない。
皇帝であるシュラバから帝都を任されている以上、アルシェントが追いかけるわけにもいかない。
出来ることはせいぜい関係機関に通達して情報を集めるぐらいだ。
だが、ヴァルハントの持ち出した艦隊にはワープ装置が載せられている。
得られる情報は目的地についてからになるだろう。
完全に後手にまわることになる。
「はぁ・・・。この失点は痛いわね」
端末からの情報を信頼しすぎていたのが今回の敗因だ。
普通は自分の端末に偽装など施さない。
偽装している最中に何かあれば助けを求めることが難しくなる。
皇族というのは利用価値が高く、犯罪組織からすれば博打するだけの価値がある存在なのだ。
実際、過去に公務で帝都を離れている際に宇宙海賊の連合体に狙われた実例もある。
護衛はつけられていたし、救援が間に合い捕まることはなかったが、それでも危険を侵してまで狙われたのは事実だ。
そんなわけで、自分の端末に普通なら偽装など仕掛けない。
「失点だけど報告しないわけにもいかないわね」
アルシェントはシュラバへの直通回線を開く。
「連絡してくるとは何かあったかの?」
「ヴァルハント兄様が端末に偽装を仕掛けて帝都を離れました」
「そうか・・・。追い詰めたのは儂とそなただが、無茶をしなければいいがの・・・」
シュラバからすれば馬鹿なことをしてもヴァルハントも自分の息子であることには違いない。
それに、何をするつもりなのか現時点ではわかっていないのだ。
シュラバは忙しい傍ら家族を大事にしてきた。
銀河帝国の統治を傾けない範囲なら子供の馬鹿な行動は許してきた。
アルシェントも昔はやんちゃなことをいくつもしてきた。
怒られはしたが最後は笑って許してくれた。
アルシェントはそんなシュラバが大好きだった。




