第百八十話
俊は目覚めて朝食を食べた後、正式な契約書を結ぶべくポール貿易の支社を訪ねていた。
「お待ちしておりました」
そう言ってレティシアが迎え入れてくる。
「今回はお世話になります」
事前に相談していたこともあり取引はスムーズに変更した。
マーチェからは契約書をしっかりと確認するように念押しされていたがおかしなところはない。
契約書にサインしてその後、レティシアと握手を交わす。
「今後とも良い取引相手であること願っています」
今回のメリットはお互いに良い所ばかりであるが、今後はどうなるかはわからない。
俊の中ではポール貿易は気の抜けない相手ということに変わりはない。
ポール貿易は商人という顔を持ちながら銀河帝国情報局の隠れ蓑という2面性がある以上、銀河帝国の益の為に動くこともあるだろう。
皇族という立場である俊と正面きってぶつかることは少ないだろうが銀河帝国の上層部の都合を優先したりする場面はどうしてもでてくるだろう。
そういった時には俊もうまく立ち回る必要があるはずだ。
だが、皇族となって日の浅い俊では後手にまわる可能性を否定できない。
広大な銀河帝国を長年まわしてきた政治家に俊が勝てる要素を持ち合わせていなかった。
契約書も無事に交わしたので俊はそのまま信濃に乗り込む。
キリス星系での用事は全て終わったので残っている意味もない。
こうして、支配宙域を離れている間にも仕事はどんどん溜まっているのだ。
残っている官僚が仕事をしてくれているがそれでも領主である俊やマーチェでしか決裁の出来ない仕事もある。
それを考えたら少しでも早く帰るべきだった。
帰りの道中に計画が立ったのだろうマーチェが相談してくる。
「俊様。受け入れる人々の居住地に惑星雪風の一部の区画を充てたいのですがよろしいですか?」
「僕は構わないけど理由を聞いても?」
「はい。それには複数の理由があります。まず1つは敵勢勢力が混じっている可能性があるからです。地上で隔離すれば工作される危険性が低くなります」
地上から宇宙に上がるにはこちらで交通手段を確保する必要がある。
地上で出来ることは限られている為、影響を最小限に抑えられるという理由だろう。
「他にもまだ理由があるよね?」
「はい。隔離された人々の不満を抑えるのも目的です」
宇宙で生活するようになって地上で生活できるというのは一種のステータスだ。
地上に隔離することで自分達は優遇されているそういう心理を働かせたいのだろう。
自分達は大事にされている。
そう思わせることで不満を逸らすのは悪くない手段だった。




