ピンチ ~他人に優しく、自分に厳しく~
カンナが落ち着き、離れた。すると女将さんが、
「あんた…さっきの意味分かってやったんだろうね。」
えっ…なんかやらかしたか…。とパニックになった。
「ご主人様、カンナの事が好きだったんですね。」
マリンが意味分からない事を言った。分からなかったが、マリンの方が好きだよ。と言ったが意味が分からない。
いや、意味は分かるが…あっ!やってしまった…。
そういえば、クルカさんの耳、触ってみたいと話したの時に、それは、求愛行動だから、安易に獣人の耳を触ってはダメって言われてた…。
最近クルカさんと会ってなかったから、忘れていた。
しかも、1回止められたのに、その時は、カンナが泣いているのに焦って、カンナが落ち着いたら、聞こうと思っていた…。
どうしよう…。これは、まずいぞ…。
ふと周りを見ると、なんか祝福ムードなんだけど…
まぁ、カンナは、俺が嫌ならすぐにビンタでもするだろうから、少なからず俺の事を思ってくれているんだろう。だから嬉しいのは、理解できる。
俺もそう思われてる事は嬉しい。
女将さんは、娘が自分で選んだのなら、別に良いし、俺の事も嫌ってはないはずだから、どこかの変な奴より、良かったって思ってくれているんだろう。
めちゃくちゃ怒られる事がなくて、少し安心した。いや、怒られた方が良かったのか?
だが、マリンはなんで祝福してるんだ?
普通、好きな人に他の異性ができるの嫌がるんじゃないの?もしかして、そう思っているのは、俺だけで、マリンはそんな事ない?この世界は違うのか?
それを聞きたいけど、聞いたら後悔する気がする。
この気は、よく当たるので、聞かない選択をした。
そして俺の気持ちだが、マリン一筋なので、困るというのが正直な意見だ。
そんな意見だが、ヤバい気がする。
まず、女将さんに見られていて、一度止めようとしている。
それを無視してしたという事は、俺は本気だと受け取っているはずだ。女将さんはマリンから、クルカさんの相談を受けていて、俺に、安易に触るなと注意された事もあった。
それを、今さら知らなかったんです。忘れてたんです。は通用しないだろう。
マリンが嫌がれば、まだなんとかできたが、どうやらマリンは良いらしい…。
これは、受け入れるしかないのかもしれない。
俺が仮に受け入れても問題がある。
師匠だ…。
師匠は、カンナを溺愛している。
あまり師匠の考えてる事は、理解できない事が多いが、これだけは確実だ。
なんとなくだが、決闘まで発展しそうな気がする。
女将さんが止めてくれる事もないだろう。
やっぱり知らなかったというしかない。が、どう伝えようか…
そんな事考えていると、
「ご主人様は、もしかして、これが求愛行動って知らなかったんですか?」
カンナが聞いてきた。
これ幸いと、俺が謝ろうとすると、
「大丈夫です。私が獣人の耳を触る事は、求愛行動って何回も教えた事があるので、心配しなくても良いですよ。」
マリンが嬉しそうに言った。
なんで、マリンが嬉しそうなのかが、本気で分からない。
「私も、口が酸っぱくなるほど教えたからね。忘れたって事はないだろうね?」
マリンの事を考えていると、女将さんまで、嬉しそうに言ってきた。
これで退路がなくなっていく…カンナに悪いが、仕方ない感じで言えば、女将さんがダメって言うのを期待して、
「も、もちろん、忘れてませんよ…。カ、カンナも幸せにできるよう頑張ります。」
しどろもどろで話すと、
「ちゃんとおっしゃらないと!!」
マリンと女将さんに同時に怒られた。
開き直ろう。
「こんな大事な事、忘れてませんよ。カンナも、幸せにできるように、頑張ります!」
隊長!退路が封鎖されました。
「不束な娘だけど、よろしくね。」
女将さんが言い
「ご主人様、ありがとう。僕、頑張るよ。」
カンナが照れながら言い
「良かったね。カンナ。」
マリンが祝福していた。
この後、女性3人で盛り上がって、なんか顔を赤くしながら、喋っていた。
チョイチョイ、聞こえてくるワードからして、これからの生活の話だった。
俺は、最後の望みで、密かに自分の太ももをつねった。が、目が覚めない。どうやら、ただの現実のようだ…。
現実逃避をしていると、
「安心しな。ボルドーには私から言ってやるから…」
救いの女将が現れた。
でも、俺の気持ちは、固まった。
「気持ちは嬉しいですけど、これは、俺が話さないといけない事です。だから、自分で話します。」
と、カッコつけてみた。
女性3人の俺への株も、上がっただろう。
が、
「でも、決闘になりそうになったら、助けて下さい。」
やっぱり、保険は欲しかった…。俺が主人公なら、最後までカッコつけるのだろうが、俺には無理だった。
マリンとカンナは苦笑いをしていたが、女将さんが珍しく、爆笑して、それを了承してくれた。
これで、死ぬ事はないだろう。今日は休みだから、女将さんが呼んできてくれる。
というか、マリンの両親にも言わないとな…と考えていた。
とりあえず、師匠が表れるまで、俺以外は寝る事になった。
カンナは、マリンと一緒に寝るみたいだ。
俺はいつものように、鍛練を始めた。
なぜか、実数値がいつもより上がった。
鍛練をしていると、女将さんが起きてきた。珍しく、本来の狐人の姿でだ。それで、
「実は、忘れていただろう?ごめんね。ジンの退路を防ぐようなやり方をしちまったね…。今ならまだ、なかった事にできるよ。」
女将さんが、そんな事言ってきた。
「すみません。実は忘れていました。でも、なかった事にはしません。カンナのあの嬉しそうな顔を、見たので、それをなかった事にする事はできません。女将さんも、そして、マリンも嬉しそうでしたし…。逆に女将さんは、俺で良いんですか?」
正直、俺はこの世界の人達から見たら、薄気味悪い奴だろう。そんな奴に、大事な娘を預けて良いのかを聞きたかった。
「そうだね…ジンが今、なにを考えているのか、想像がつくよ。素性が分からないのは、確かに不安な気持ちもある。だがね、ジン。あんたは、良い奴だ。素性が知れないというのは、小さな事だ。今のあんたは、少し頼りないが、他人に優しく、自分に厳しい、良い奴なんだよ。私が賛成したのは、カンナが選んだという事が、1番の理由だが、私は、カンナがジンを選んだ事を、誇りに思うよ。」
あの女将さんに、ここまで言ってもらえるなんて、少し泣きそうになったが、また頼りないと、思われるのが嫌で、我慢した。
「ありがとうございます。でも、他人に優しく、自分に厳しいって、なんか普通ですね。」
「それを本気で普通と思う事、そして、実行している事が、ジンは良い奴って事になるんだよ。まず、人は基本、自分が1番可愛いよ。それから、愛する人や自分の子供ができて、自分の優先順位が下がる事はある。今までの感謝とかで親とかも、そのなかに入る奴もいるだろう。そして、その人の為に、自分を犠牲にする事ができる奴は、少なからずいる。だが、知り合って間もない相手の為に、自分を犠牲にする奴は、かなり少ないと思うよ。」
そうなんだろうか…。でも、
「知り合って間もないっていっても、師匠と女将さんの娘ですよ。」
「そうかい?ジンは、例え、カンナが私達の娘じゃなかったとしても、同じ選択をしたと思うよ。」
そうだな。
でも、
「女将さんも自分に厳しいですよね。」
「私はその分、他人にも求めるからね。ジンとは違うよ。」
苦笑いしながら、謙遜しながら言った。
女将さんのそんな態度に、少しムッとした。
「俺は、甘いだけですよ。しかも女性限定で。確かに女将さんは、厳しいですけど、その人の為の厳しさなんです。俺なんかの甘さなんかではなく、本当の優しさなんだと、俺はそう思います。」
女将さんの表情が、嬉しいんだけど、どこか困惑していた。
「そう思う事、思ってもらえる事の難しさを、分かってないんだろうね…。…もう私の話は良いじゃないか。私は嬉しい。それが分かれば十分だろ。」
初めの方は聞こえなかったが、確かに女将さんが、本当に祝福してくれている事は、分かったので、まぁ良いか。
それで、マリンはなんで祝福したんだろう…
「女将さんは、マリンがなんで、嬉しそうだったんですかね?」
「それを、私から言うつもりはない。」
ですよね…。期待してなかったが…
「だが、あんたのせいだよ。」
…はっ!?なんで俺のせいなんだ?俺には、ハーレム願望もなければ、マリン以外を欲した事はないのに…なんでだ…。
やめよう。マリンが祝福している理由を知っても、誰も幸せにならない気がする。
そんな事考えながら、女将さんと、一緒に朝食の準備の手伝いをした。
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