表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地雷のおかげで生きている男  作者: おむすびさん
まだ知らない常識とカンナ
33/62

正体と責任

 昨日【アナライ】に戻り、早朝に寝て、朝に目が覚めた。

 少しハメを外してしまい、マリンはまだ寝ている。


 一足先に起きた俺は、食堂に行き、朝食を食べている時に女将さんにからかわれ、カンナは相変わらずやる気のない顔していたが、少し赤くなっていた。


 朝食を食べ終え、しばらくしたら、宿屋の庭で女将さんがカンナに鍛練を始めた。


「このくらいも出来ないのかい。譲ちゃん。今までなにやってたんだい。」


「なんでこんなめに…昨日まではパラダイスだったのに…」

 カンナがぶつぶつなにか言っていた。


「私は聞いてんだよ。文句ばかり言わないで、質問に答えな!」


「だらだら暮らしていました。」


「そうだろうね。魔術師は戦闘中、動く事も少ないし、攻撃も直接しないし、攻撃も当たらないように立ち回る。譲ちゃんのやっている事は間違いではない。だがね、魔術まで衰えてちゃ意味がないだろう。魔術くらいはしっかりやりな。」


「だって仕方ないじゃん。奴隷になって、ダメな奴隷のふりしとかないと、いけなかったから魔術の鍛練してないんだよ…」

 またぶつぶつ言っていた。俺には聞こえなかった。


 俺には…

「お前、そんな言い訳があるか!なんでダメなふりしないといけない。そもそもなんで奴隷になったんだ。」

 譲ちゃんからお前になった。俺が言われたてめえになるまで時間の問題かも…


 それにしても、奴隷になった事情なんてナイーブな事だろ。それを女将さんが聞く事は筋違いだ。女将さんにしては珍しい。


「女将さん!そういう事を聞くのは、デリカシーがないんじゃないですか?女将さんが聞くのは筋違いです。」

 女将さんとカンナがポカーンとしていた。


「なんだ…やっぱり気づいてないね…それともわざとやってる?」

 女将さんがぶつぶつなにか言っていた。自分が聞くのは筋違いだったと反省してるのか。


 初めて女将さんに勝った気がした。 

「女将さんが、筋とおさないのも珍しいですね。」


「そうだね。譲ちゃん悪かったよ。」

 口では謝っているが、それ以外は全く謝ってない。


 カンナが恨めしそうに俺を見ていた。


 なぜだ?助けたのになんでだ?

「カンナ、なんで俺に怒っているんだ?怒るなら女将さんだろ。あなたは私のお母さんですか?と言ってやれ。」


 女将さんが笑っていた。

 言えるもんなら言ってみろ!って感じか?


「カンナ、言うんだ!女将さんはお前には言えないだろう思われているぞ!!」


 女将さんがもっと笑った。

 なめられてる!


 違う事は違うと言わないといけない。

「カンナ!なんでいわ…」

 

「ご主人様は黙ってて!」

 言おうとしたらカンナが遮った。


 なぜ俺がキレられてるんだ?と思っていると、

「昨日、話したでしょ。」

 はい?なんで俺が知らないのに女将さんに話しているんだ?


「あんたのだらしなさをジンに教えてやりな。」

 って事は、女将さんに教えていたのか?

 女性は全くわからない。男の俺にはさっぱりだ。


「奴隷になって、売れなければ、一生なにもしないで暮らせると思って、奴隷になりました。」

 さらに、カンナの思考はもっとさっぱりだ…。


 空いた口がふさがらない。

「…そうだったのか。」

 しか言えない。あの奴隷商人に同情した。泣いて喜ぶ訳だ。


「カンナ。あんたを見つけたのがジンで良かったよ。もし、もっと厳しい人に見つかっていたらどうしたんだい?」

 確かにな…俺は甘いからな…。


 女将さん、お母さんみたいだな。まぁ、俺やマリンにとったら【アナライ】のお母さんみたいな者か…


 少しは反省したか、と思ったが

「あんな脳筋ばかりの街じゃあ、見つからないよ。」

 こいつ…ここまで言えたら尊敬するわ…。


 でも、ぶっちゃけるのは今じゃないよ。ある意味、尊敬するがヤバいだろ。こいつ目ついているのか?

 ここは、そうだったね。気をつけます。ごめんなさい。で済むだろう。


 女将さんの顔が…

「あんた!そんな自堕落でどうすんだい!!ボルドーのせいだね。甘やかし過ぎなんだよ。全く…」


 あれ?なんでカンナと師匠が知り合いなのか?


「カンナ、師匠と…ボルドー様と知り合いなの!?」


「あーあっ、お母さんが自分でばらしてどうするの?」

 はっ!?お母さん?女将さんがカンナのお母さん?


「女将さんってカンナのお母さんなんですか?」


 その後、マリンも合流して全部聞いた。かなり驚いた。そして平謝りした。知らなかったのは、俺だけだったみたいだ…。


 今、思い返せば納得できる。

 決闘の時、いろいろサポートしてくれてたみたいだった。

 特に、デーブルの試合を見ていて、デーブルの伽相手に【変装】して、デーブルに抱えられたところは脱帽した。それを俺は…


 っていうか師匠!確かにカンナは、自由な子で優秀な魔術師だが、俺が思ったのと違う!!凄い人なんだろうな。と思っていたのに…

 なんか詐欺にあった気分だ。


「女将さん。今までいろいろ申し訳ありません。そして、本当にありがとうございました。」

 女将さんのままで良い、と言われたのでそのままにしている。


「いいよ。それよりカンナは任せときな。びしびし鍛え上げてやる。性根を叩き直さないとね。」

 おおーっ…怖い。


 そうだ!今までの恩返しに

「女将さん、カンナ解放する…または女将さんに譲渡しましょうか?」

 カンナの顔が、解放の時はキラキラして、譲渡の時は首がとれるんじゃないか。と思うくらい振っていた。


「いやっ!それは、いくつも筋が通らないよ。」

 女将さん、筋通さないといけない病気でもかかっているのか?娘なんだから、自分でいうのもなんだが、変な男の側にいるの心配じゃないのか?


 それはともかく、複数あるのか、

「いくつもですか?」


「まず1つは、カンナが自分の責任を果たしてない。独立した大人が自分自身で売ったんだ。それを売れる予定がなかった、なんて言い訳あり得ない。騙されてなら考えてやってもいいが、それじゃダメだ。」


 なんか…確かにそうなんだけど…しかも、騙されてなら考えてやっても、って、なんか本当に考えるだけっぽいな…。


「2つ目は、ジン達になにも貢献していない。ジンはしかるべき手順で買ったんだ。それが師匠の娘や、お世話になった人の娘だからといって、解放や譲渡する必要はない。いらないなら、どこかの奴隷商店に売りな。」

 本当に厳しい…。買った側の責任なのかもな…違うか?


 売りな。って言ってたけど、奴隷商店に売る日が、俺の命日になりそうだ。まぁ売るつもりはないけど。


「そして最後だが、親が子供を奴隷のように使ってはならない。いくら自分が生んで、育てたとしても、子供は親の道具ではない。アドバイスや補助するのは良いが、それを含めて決めるのは子供自身だ。それだけは越えてはいけない一線だと、私は思う。実際、私に譲渡したら筋を通すために、道具として使わないといけない。それだと一方を立たせると一方が立たなくなる。だから断る。」


「道具として使わなければ良いんじゃないですか?」

 人を道具とか考えられない。


「それを私がしちまうと、今まで道具として使っていた者が悪者になるかもしれない。そいつらはジンと同じで、しかるべき手順で買った奴らだ。それなのにだ。私の正体はこの街にいる、古参の奴らには結構知られている。それで奴隷を大事に使ってたら、それが見本になってしまう。街長は奴隷を大事にしてるのに、あの人は…ってな、それじゃあ買った奴らがバカを見る。可哀想だろう。」


 やっぱり納得できない。できないが…これがこの世界の常識なんだな。

 奴隷解放した、地球の人達は本当に偉人だったんだな…。ちょっと違うかもしれないが…。


「女将さん、やっぱり俺は納得できないし、その人達も可哀想とも思えないです。マリンやカンナを道具だなんて思えません。ただ、この考えを押し付けるつもりもありません。」

 地球の偉人達の真似なんて、俺には無理だ。


「ジンの考えは嫌いじゃないよ。それはそれで良いんだ。そういうのも含めて、主人の自由なんだから。ただ、私がするのが不味いってだけの話さ。だから解放も譲渡もするんじゃないよ。」


 きっと女将さんも、本当は解放や譲渡してほしいだろう。だが街長の立場が、それを許さないのだろう。

 街長じゃなければ良かったと、今ほど思っている事はなかった。と思っているに違いない。


 なぜなら、女将さんの目が少し赤くなっていた。そんな女将さんを理解はできないが、尊敬した。


「女将さん、そういってカンナの世話をサボらないで下さいよ。」

 笑いを誘うように言った。


 女将さんも俺の意図に気づいたのか、

「あはは!安心しな。びしびし鍛えてやるからね。」

 涙をだしながら笑っていた。これで涙をやっと流せたかな?


「ただ、厳しいだけじゃ可哀想なので、たまには優しくしてあげてくださいね。お願いします。昨日と同じように、夜も一緒にお願いします。本気(マジ)で。」


 マリンの顔が赤くなってうつ向いていた。


「ありがとう。…もう昼過ぎか、夜の準備しないとね。」

 俺にしか聞こえないくらいの、小さな声でお礼を言って、宿屋の中に入っていった。


 ふと、カンナの様子を見ると寝ていた。それを見て呆れ果てたが、近くに行って起こそうと腕を持つと、ローブの袖が濡れていた。


「お互い、不器用すぎるだろ。」

 俺の呟きは、一人の不器用者の耳に消えていった。

 お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ