七月四日
七月四日 PM10:00 草薙家
「なるほど、相馬ナイトという男が貴方の仲間の大切な人の魂を奪い、それを取り戻す為に異世界にやってきたところを武装集団に襲われ、運悪くここに落ちたという事ですか」
狩谷と空子は同時に頷いた。
「運悪く落ちて、さらに頭の打ち所が悪くて数時間ほど、気絶してしまっていたというわけですか」
再び、肯定する二人にメイドは少し考えてから。
「では、この天井を壊した修理は誰がしてくれるのでしょうか?」
「「申し訳ありませんでした!!」」
「あの・・・・もう、そこらへんにしてあげたら?もう、四時間はお説教しているし」
「お嬢様の言うとおりですね。お嬢様の優しさに感謝したら次からはこんなことをしないように気をつけてください。私は用事があるので、失礼します」
そういって、メイドは部屋から出て行く。
だが、すぐに戻ってきて。
「注意しておきますが、お嬢様に不埒な事を働けば異世界だろうとどこに逃げても見つけ出して徹底的に後悔させてやるつもりですので覚悟して置いてくださいね」
「「はい!!」」
二人はがくがくぶるぶると生まれたての小鹿みたいに体を震わせて頷く。
それを確認してメイドは部屋から出て行った。
彼女が本当に戻ってこないのを確認してから二人はどっと体に疲れがやってきて正座を崩す。
「つ、つっかれたぁ・・・・」
「なんなのあの人、強くて勝てないし」
「すいません。あれでもまだ優しいんですけれど」
「「ウソォ!?」」
二人は恐ろしさのあまり叫んだ。
「・・・・それで、貴方たちはどうして私の家の屋根を壊して落ちてきたのでしょうか?」
少しばかり他愛のない話をしてからエイレーネ・D・草薙は狩谷と空子に尋ねる。
「えっとぉ・・・・」
なんといえばいいのだろうかと狩谷は今更になって考える。
ゲイルの“大切な人”を取り戻す為に別世界にきたはいいが、来た途端、武装した兵隊に襲われ、パチもんといわれのない文句で襲い掛かってくるゴスロリ鎌少女から空子と一緒に逃げていると連戦での疲労がたたって意識が朦朧とした時に何かが激突する。
ぶつかったのは草薙家を覆っている特殊な結界で二人の力があまりにも強く、一部の結界が壊れてそのまま草薙家の屋根を壊した。
メイドは敵襲と勘違いして瞬時に二人を無力化させて拘束して、主であるエイレーネに見せる前に排除しようと考えたが、エイレーネの制止により中止して、彼女の前に引き出すことにしたのである。
「私達、人を探しているんです!」
「人探し・・・・ですか?」
「はい」
考えている狩谷の横で空子が話す。
「その人が大切なものを奪ってしまって、一週間以内に奪われたものを取り返さないといけないんですけれど、土地勘もなくて迷って気がついたらお宅に落ちてしまって」
「(本当の話混ぜ合わせているけれど、後半すっげぇウソくさくみえるんですけどぉ!?)」
「まぁ、それは大変ですね。遠方の地で苦労するというのは私もわかります・・・・苦労しますよね」
「(あれ、信じてくれてる?)」
エイレーネの目には疑惑といった感情はなく、同情の感情が浮かんでいる。
少し天然が入った子なのかなと狩谷が思っていると、空子が尋ねた。
「あの、それで、相馬ナイトという男を探しているんですけれど・・・・どこにいるかとかはわかりませんよね?」
「・・・・貴方達、ナイトさんの知り合いなんですか?」
二人は内心、ガッツポーズをする。
たまたま落下した家で標的の居場所を知れる機会が得られるとはなんと喜ばしい事だろうかと表情にださないように気をつけながら空子は尋ねた。
「いま、彼はどこにいるんでしょうか」
空子の質問にエイレーネは答えない。
「その前に、教えてください。どうしてナイトさんを探しているんですか?」
「えっと・・・・」
「相馬ナイトに俺の友達の大切な人の魂が奪われたからだ」
「ちょっと!」
「・・・・」
「どうして、ナイトさんが魂を奪ったと?」
「魂を奪ったのは獅子座の(・)魔法使い(ウィザードリイ)、相馬ナイトだと教えてくれた奴がいた・・・・なぁ、頼むよ!アンタは相馬ナイトの居場所を知っているんだろう?一週間以内に俺達はアイツの、ゲイルの大切な人の魂を取り返さないといけない。時間がないんだ!アイツのことを知っているなら」
「へぇ、面白い話をしてるじゃねぇか」
襖のドアをあけて安倍彦馬が姿を見せる。
「安倍さん、どうしてここに」
「ちょーっと、相馬ナイトの野郎に用事があったんだが出かけたってことでエイレーネさんのところにいるんじゃねぇかと思ってきたんだが・・・・てめぇらに聞きたい事がある」
有無を言わせぬ雰囲気にエイレーネに訴えていた狩谷も空子も言葉を止める。
安倍彦馬の体からあふれ出そうとする殺気に気づいた。
いつでも攻撃できるように構えていた二人の耳は安倍が発した言葉に動きを止めてしまう。
「ゲイル・プライドという男を探している、てめぇら、どこにいるか知っているか?」
「「っ!?」」
彼の口からゲイルという言葉がでるのは予想外だったのだろう、目を見開いて安倍を見る。
「その態度で十分だ、あの野郎はどこにいる?」
絶対零度の視線、安倍はいつでも殺せるとでも訴えるように狩谷と空子へ鋭い視線を向けた。
「何で、貴方がゲイルを知っているの」
空子の疑問は最もだった。
彼らがこの世界に来てから数日も経過してない。
名乗った事もない名前をどうして彼が知っているのだろうか。
「質問をしているのはこっちだ。【余計な事を話さずにどこにいるか答えろ】」
重圧に体が縛り付けられたみたいに空子の口が勝手に喋りだそうとする。
「てめっ!」
狩谷はアーミースキルを使おうとするがそれよりも早く。安倍が動いた。
「【てめぇは動くな】」
がくん、と狩谷の体が石になったみたいに動かない。
力をこめようとすると全身が鉛みたいに鈍くなった。
「な、なんだこりゃ!?」
「【さっさと、答えろ】」
空子へ視線を向けて言葉を紡ぐ。必死に抵抗している様子だったが安倍の力が増したのだろうか、彼女は答え始める。
「し・・・・ら・・・・な、い」
「ふん、要らん時間をくった・・・・エイレーネさん、失礼します」
「待ってください、何かあったんですか?」
出て行こうとするのを引き止めようとすると安倍はちらりと顔だけを動かし振り返る。
「そこにいる奴らの仲間に俺の大切な人の魂が奪われた」
「ウソだ!ゲイルがんなことするわけねぇだろ!!」
動きが鈍い体を動かして狩谷は鎌を取り出して構える。
安倍は冷たい瞳で鎌を構えている相手を睨む。
「友情っていうヤツか? んなものは意味がない」
「なんだと!?」
「――相馬ナイトがそんなことをするわけがない、って俺達が思っていても、大切なものを奪われたらお前らもいうだろう?・・・・奪ったものを返せって」
狩谷は絶句する。
「俺は相馬ナイトに関して友情も何も感じていない、アイツはただの使える駒だ。アイツが動けばこっちの行動がやりやすくなるそのためだけに使う関係だ。お前達のいう友情なんて欠片もねぇ」
「じゃあ・・・・」
真っ直ぐに安倍を見ながら空子は尋ねる。
「何の為に戦うの?」
「決まってる」
安倍は表情を変えずに告げた。
「――俺の為だ」
迷わうことなく告げて安倍は部屋から出て行こうとする。
「待ってください、安倍さん」
「・・・・なんですか? 俺は急いでいるんですけど」
出て行こうとした安倍を呼び止めたエイレーネの真剣な表情を見て安倍は動きを止めた。
「いくつか確認したい事があります。まずは狩谷さん、空子さん。貴方の友人の大切な人を奪ったという相馬ナイトという人物の特徴を教えてください。外見からどんな力を使ったのかをです」
「えっと・・・・」
「全身はすっぽりとローブで隠していて、光弾みたいなものを飛ばしていた」
「では、安倍さんの方を襲撃した人は?」
「・・・・俺の方に現れたヤツはゲイル・プライドって、名乗り全身をすっぽりとローブで隠し、爪先から光の鞭みたいなのを使ったり、光弾・・・・あと、ネクロなんとかとかいう本を持っていたな」
「もしかして、ネクロノミコン!?」
「そんな名前だったな」
狩谷と空子の話では彼らの所属している学園からネクロノミコンというクトゥルフ神話に登場する魔導書と説明がなされて安倍が納得したような声を漏らす。
「・・・・成る程」
「え、ちょっと待てよ。俺らが追っている相馬ナイトがネクロノミコンを盗んで、アンジェの魂を奪ったのに、なんで、ソイツがゲイルの名前を語ってこの世界の人を襲っているんだ?」
「もしかしたらあなたたちの世界に現れた相馬ナイトと安倍さんの前に現れたゲイルという人は同一人物なのではないでしょうか」
「でも、なんで!?」
「おそらく、仲間割れ、もしくはどちらかに恨みを持っており、潰し合いをしてくれることを目論んでいるのではないでしょうか」
狩谷が戸惑いの声をあげるとメイドが隣で補足する。
いきなり傍にメイドが現れ狩谷と空子は驚いて後ろに下がった。
安倍とエイレーネはいつものことみたいに大して驚かない。
そもそも状況が状況なので驚けなかった。
「ってか、それだとかなりヤバくないか。ゲイルのヤツ、今回の事でかなり冷静さを欠いてる。今のままじゃ、相馬ナイトを殺しかねない」
「・・・・どうやら一足遅かったみたいだな」
全員の視線が安倍に集まる。
安倍の手の中には人の形をした紙があって、それに手を当て、彼は口を開いた。
「相馬ナイトと漆黒の竜人が殴りあいしてやがる」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお」」
工場の中で雄叫びをあげて二人の男の拳がぶつかり合う。
漆黒の拳と赤い粒子を纏った二つがぶつかり周囲に強風を生み出す。
『エンドオブソウル!』
プライドソウルの刀身が青白く輝いて、相馬の体に向かって迫る。
拳を刃に向かって繰り出す。
赤い粒子を纏った拳と青白く輝く刀身がぶつかって爆風が二人の間で起こる。
土色の爆煙を切り裂くようにして同時に前に踏み込む。
だが、相馬のほうが少し速い。
『クトゥルフサンクチュアリ!』
球状のバリアを展開して相馬の拳を阻もうとしたアデルだが、拳がぶつかる瞬間、バリアが消滅してしまう。
『なに!?』
バリアが消えたことに動きが鈍ったアデルの体に相馬の拳が突き刺さる。
『ぐっ・・・・うっ!』
サイボーグソルジャーの体に響く重たい一撃。
今までの強敵に匹敵するほどの一撃にアデルは苦悶の声を漏らす。
『アクセラレーションキック!』
だが、アデルもやられたままで終わらない。
拳を繰り出してがら空きになっている彼の体にエネルギーを纏ったキックを叩き込んだ。
口から鮮血を吐いて後ろの機材に体を打ち付ける相馬をみてもアデルは警戒を解かない。
「(何故、ネクロノミコンを使わない?)」
自分達を圧倒した魔導書を使おうとしないことがゲイルに強い警戒心を持たせていた。
あの魔導書が使われたらいくらメタルデビルズといってもひとたまりもないだろう。
写本だとしてもあれの力は相当なもの、戦ったアデルだからこそあの力のおそろしさを理解している。
だから、相馬ナイトがネクロノミコンを取り出すまでアデルは警戒を解かない。
目を凝らしていると、相馬の姿が消えた。
『っ!?』
何もない空中に向かってプライドソウルを振り下ろす。
ざくり、と肉を切る感触が武器から手に伝わる。
次の瞬間、アデルの体全身を激しい痛みが襲った。
『ぐぉっ!』
鋭い痛みに苦悶の声をあげて反対側の壁に激突する。
自分のいた方を見ると、拳を前に出して構えた状態の相馬の姿があった。
『使って・・・・ないだと』
今の一撃はネクロノミコンを使ったものだとアデルは考えていた。肉体強化と姿を消す術を使ったんだと思い込んでいた。
けれど、違う。
彼の手の中にはネクロノミコンがない、隠し持っている様子もない。
ただの拳でゲイルを殴り飛ばしたのだ。
『お前、何故、ネクロノミコンを使わない!?』
「・・・・は?」
アデルの叫びに相馬はなにをいっているんだという顔を浮かべている。
惚けているのか、何か企んでいるのか。
『(ネクロノミコンを使うつもりがないというなら全力で叩き潰してアンジェを取り戻す!!)』
アデルの全身が真紅に染まり始める。
異変に気づいて相馬が身構えていると周囲の温度が上昇して行く事に気づいた。
戦いの中で解放されたアデルの力の一つ、クトゥグアドライブ。炎熱操作能力と超パワーを得られる。
奥の手が使えない今のアデルにとって、この力で倒せなければかなり厄介な事になるのと同時にこれで相馬を倒すという覚悟の現われだった。
『行くぞ!』
アデルが地面を蹴りプライドソウルを振り下ろす。
相馬は刃を避けて拳を繰り出した。
しかし、相馬の拳はアデルには届かない。
「体が、炎に?」
アデルの体が炎に変化して攻撃を受け流す。
無茶苦茶に拳を振るうけれど、実体のないものに打撃が通じるわけがない。
『これで終わらせる。灼熱の炎の中で自分のしでかした罪の重さに懺悔しろ!!』
炎となったアデルの一撃が迫ってくるのを見ても相馬は怯えず拳を繰り出そうと構えた。
だが、炎を睨んでいた相馬の目線が途中で大きく開かれる。
そんなことなど気づかずアデルの炎の一撃が相馬の体を貫いた。
「がっ・・・・はっ・・・・」
炎に体を切り裂かれて大量の血を地面に撒き散らしながら壁からはみ出ている鉄骨に相馬の体が突き刺さった所でアデルの動きは止まる。
「っはぁ・・・・はぁ・・・・」
長時間の変身と連続での戦闘、相馬ナイトとの殺し合いによってかなりの疲労がゲイルの体内に蓄積されていて、立っているのもやっとなほどだった。
「これで・・・・アンジェを」
ふらふらとプライドソウルを杖代わりにして立ち上がり、動かない相馬へと近づこうとゲイルが足を踏み出そうとした。
工場の天井を砕いて、ソイツは現われる。




