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フェイズ・ジョーカー  作者: ナイトレイド
魔法使いと傭兵のダブルクライシス
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37/47

七月四日

七月四日 PM14:25



「なんだ・・・・こいつは」


 ゲイルは工場の天井を突き破って乱入してきた怪物の姿を見て驚きの声を漏らす。


 悪魔のような翼、獣のような顔、明らかに人ではない姿をした異形の存在はゲイルと串刺しになっている相馬の姿を捉えると手を前に伸ばした。


 すると、指先から触手が伸びて、相馬の串刺しにされている場所からすぐ近くに意識を失い倒れている羽鳥天月の体に巻きついた。


 巻きついた触手は怪物の体に向かうとあろうことか羽鳥を取り込む。


 少女を怪物が喰らったような場面を見て、ゲイルは目を見開く。


「(少女を取り込んだ・・・・だと!?)」


 動揺しているゲイルの前で、怪物がさらに手を伸ばす動作をとると地面と壁の一部が抉れて、両腕にカタールが形成される。


「っ!?」


 全身を針のむしろのような殺気を感じてガンブレードを構えた。


 強風と鋭い痛みがゲイルの体を襲う。


「ぐがっ!!」


 怪物の姿が掻き消えると同時にゲイルの体は工場の壁を突き抜けて外に飛び出していた。


 視線を向けると彼がさっきまでいた場所に怪物がカタールを構えた状態で血のような赤い瞳がゲイルを捉えて離さない。


「(なんなんだ、こいつは!)」


 生々しい肉体の隙間から覗いている骨格は人間の骨ではない、鉄のようなもの。


 それをみて、ゲイルはある考えにたどり着く。


「(目の前にいるコイツは・・・・まさか、サイボーグソルジャーなのか?)」


 思考をめぐらせていたゲイルの前で怪物の手の中にあるカタールが変形して拳銃へと姿を変えた。


 咄嗟に、近くに転がっているケースの中に飛び込む。


 弾丸が二発、標的を失ったものは後ろにあった建物に直撃。


 数秒後、直撃をした建物は一瞬で消滅した。


「こいつ・・・・」


 ゲイルは消滅した建物を見て言葉を失う。


「(サイボーグソルジャーより強い!?)」


 消滅した建物に目を奪われていたゲイルの隙をつくように怪物が銃を再びカタールへと変化させて迫る。


「(しまった・・・・!?)」


 二対の刃がゲイルの首と心臓に近づいてくる。


 不意打ちに反応できない。


 凶刃が迫る瞬間、ゲイルの視界の片隅にちらちらと舞う赤い粒子に気づく。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」


 直後、怪物が悲鳴を上げて空中に浮いて地面に叩きつけられる。


 ゲイルは目を見開いて、怪物を“殴り飛ばした”存在へ目を向けた。


「ゴホッ・・・・ゴホッ!」


 まともな腕を前に伸ばして殴った状態で立っている相馬がそこにいた。


 複雑骨折を起こしてありえない方向に曲がっている腕からは定期的に赤い液体が地面に零れているばかりか胸元はぽっかりと大きな穴があり、そこからはぼとぼとと液体が流れている。


「お前・・・・」


「・・・・ゴホッ」


 相馬は咳き込みながらゆっくりと前に踏み出す。


 歩き出すたびに穴や手からぽろぽろと血が零れていく。


 重傷、動けば死んでしまう危険性もあるというのに相馬はおぼつかない足取りでゆっくりと倒れている怪物に近づいた。


「ガハッ!?」


 起き上がった怪物のカタールが相馬のわき腹を斬り裂く。


 ピシッと音がしてわき腹から雪崩のように鮮血と贓物が零れそうになる。


 原形を保っている手でわき腹を押さえようとしている相馬の頭を潰そうと怪物の腕が銃に変形した。


 銃口は相馬の頭に向けられて、確実に殺すつもりでいるのだろう。


 ゆっくりと引き金を引こうとした怪物の体に数発の弾丸が直撃して体から火花を散らす。


 アデルはダゴンとヒュドラの二丁の赤と緑の銃を構えて、怪物へと攻撃する。


『そんなボロボロの体で何をしている、すぐに逃げろ!』


 続けて攻撃をしながらアデルは今にも倒れそうな相馬ナイトに向かって叫ぶ。


「・・・・」


『・・・・貴様』


 ぽつり、と呟いた声にアデルは怪訝な声を漏らす。


 小さいけれど、サイボーグソルジャーのアデルは声を捉えて驚きの表情になる。


 その隙をつくようにして怪物の背中から漆黒の翼が伸びてアデルをなぎ払う。


 ただのなぎ払いに体にダメージはない、だが、攻撃はやんだ。


 自身に襲い掛かる光弾がなくなったことにより自由に動けるようになった怪物は地面を抉るように尻尾を振るう。


 周囲の建物をなぎ払いながらアデルを潰そうとする尻尾は直撃したらサイボーグソルジャーでも一たまりもない。


 来る衝撃に覚悟していると、尻尾ががくん、と途中で止まる。


 怪物の尻尾を相馬が片手で掴んでいた。


 掴んだ瞬間、鱗で手が切れて血が飛び散る。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 全身の力を振り絞るような声をあげて血が流れ落ちるのを気にもせず走って尻を向けた状態の怪物に向かう。


 近づけさせまいと怪物は腕を変化させて上空に光弾を放つ。


『ルルイエセメタリー!』


 しかし、アデルの放った技が上空から降り注ぐはずだった光弾を全て打ち消し、むき出しになっている怪物の背中を撃ちぬく。


 相馬の手が怪物の背中に届く、という瞬間、怪物の全身から黒い炎が噴き出す。


『な、なんだ!?』


 アデルが呆然と黒い炎を警戒している隙を突いて怪物は空へと逃げる。


『・・・・・・』


 怪物が居た場所には重傷でぴくりとも動く様子を見せない相馬ナイトが転がっていた。


 ガンブレードを手に持ってアデルはゆっくりと動かない彼の下へ向かう。


 かなりの出血をしていて息も小さい、このままいけば確実に待っているのは『死』だ。


 アデルはゆっくりと彼の胸倉を掴む。


『(殴ってでも意識を覚醒させる、そしてアンジェの居場所を聞き出したら――徹底的に“絶望”させて殺してやる)』


 だが、アデルはそれを実行する事ができなかった。




「そこまでだ」



 アデルの後頭部に銃口が突きつけられる。


『・・・・誰だ?』


「名乗ってもいいんだけどよ。俺はこれといって特定の名前をもっていなくてね。昔から様々な呼び名があった・・・・ゴーストだとか人でなしとか」


 この世界に来てから聞いた事のない声にアデルは警戒心を強める。


 だが、相手は銃を向けているというのに恐ろしいほど、殺気を感じさせなかった。


「まぁ、ここではななしって名乗っておく事にするか。名前がないからナナシという意味だ。早速だけど、ソイツを殺すのは待った方がいいと思うぜ?」


『すぐには殺さないさ』


「――拷問した上で殺すとかそういう恐ろしい発言はなしな? 悪いけれど、それも止めておいた方がいい、こいつは何も知らないただのパンピーだからな。だから、俺が教えてやるよ」


 欲している情報を与えてやるというナナシの言葉はアデルに疑問と誘惑の二つのタネを植え付ける。


『何を教えるという? そもそもお前は何故、そんなことをしようとする?した上でお前にメリットがあるというのか?第一、俺の求めている情報を貴様がもっているとは思えない』


「アンジェ・ティーリ」


『っ!?』


 その名前を知っている者はこの世界に存在しない。


「おっと、急に殺気を膨らますのはやめてくれないかねぇ? こっちは話し合いならぬ情報提供の為にここにきているんだからさ・・・・情報をすぐに教えてあげてもいいんだけどさ、出来るなら変身解除してくんないかなぁ?」


『・・・・・・』


 ゲイルは警戒心を高めたままで変身を解除する。


 何かあればすぐにでも攻撃できるようにソウルプライドを手に持ち。


「さて、情報を教えるけれど、アンジェ・ティーリの魂を持ち去った犯人はそこに転がっている相馬ナイトじゃない」


『信じると思うか?』


「話は最後まで聞いてくれよ、慌てるこじきは貰いが少ないって知らないのか? ソッチにこの諺があるならばだけど、っと、話がそれたな。誘拐した犯人の名前はクヴァシル、元々はこっちの世界の魔術結社に所属していた超がつくほどの優秀な魔術師だった」


「・・・・?」


「ただ、ソイツは愚かにも禁忌の魔術に手を出した。その力は世界を揺るがすほど危険で、事態を重く見た結社はソイツを第一種危険指定に施して処分しようとしたが失敗、今回の事件を引き起こしたのは自分を処分しようとした魔術結社と認めようとしない世界に復讐をするため・・・・といったところだろうな」


「そんな事の為に!!」


 ぎりりっと奥歯をかみ締めてゲイルは激昂する。


「答えろ、ヤツはアンジェの魂を使って何をするつもりだ!」


「さあね、エリートさんの思考を理解することはできないよ」


「貴様っ!」


「但し、居場所なら教えてあげられるよ」


 斬りかかろうとしたゲイルの額に向けてナナシは拳銃を向ける。


「警告しておくけれど、アンタ一人じゃ絶対にクヴァシルは倒せないよ。そこに転がっている獅子座の魔法使いの力を借りないといけない」


「・・・・断る」


 ゲイルはちらりと、虫の息の相馬ナイトを見て、拒否する。


「こんな、歪んでいるヤツの力なんか借りたくない」


「おーおー、言うねぇ・・・・それとお願いを聞いてもらって欲しいんだけどいいかな」


「お願い?」


「今からくる連絡に指定されている場所へ相馬ナイトを連れて行ってもらうことだ」


「何故」


「コイツには死んでもらって困るからだよ。まぁ、そのときに色々とわかるんじゃないかな? キミの情報と・・・・コレから起こることによってね」



















「ドラゴンナイツ計画?」


『そう』


 人の気配がない廃れたホテル。


 その一室でエリック・アンダーソンは彼が通う施設、ヘブンズエデンの理事長エドガーから連絡が来ていた。


 異世界同士が連絡を取る事はできないのだが、黒いローブがあけた異次元の門が稼動している間は通信可能だとわかり、エドガーは魂のなくなったアンジェの身を守っているエリックに連絡を取っていたのである。


「その計画がなんだというのです?」


『面識はなかったのだが、私と同じくらいの天才的頭脳を持っていたアマテラス・ヴァルヴァという科学者が別の観点から作り上げたサイボーグソルジャーの設計図が存在していたらしいんだ』


「らしい?というのは・・・・」


『我々が発見した時には設計図は既に盗まれた後だった』


 エドガーの話によるとある地域で起こった震災の調査中に秘密通路を発見、調査を進めて、アマテラスの研究施設だと発覚する。


 だが、そこでエリックは疑問があった。


「設計図が盗まれたというのによく存在がわかりましたね」


『よっぽど几帳面な性格だったのか、日記帳に事細かく書かれていたよ、但し、暗号で記してあったけれど』


 つまり、解析しているのかとエリックは納得する。


『さて、話を戻そう、アマテラスが設置していたカメラの映像に設計図を盗んだ犯人の姿があってね、それが』


 黒いローブだったと告げるエドガーの言葉にエリックの瞳は鋭くなる。


「それは本当の話ですか?」


『おそらくね・・・・あの人物がどうゆった目的で設計図を盗んだのかはわからないけれど、そっちで現れる危険性があるからね。報告しておこうと思ったのさ。設計図のサイボーグソルジャーの名前は“グランバニッシャー”わかっているのはアデルやビャクオウと同じくらい、もしくはそれ以上の力を有している。武器は体内のエネルギーを周囲に撒き散らして武器を精製、練成という方が正しいかもしれないね』


 エリックは告げられていく情報に驚きの感情が浮き上がってくる。


 メタルデビルズよりも強力なサイボーグソルジャー、そんなものが現れた時どうするかという対策を考え始めた。


『同時に、危険な爆弾を孕んでいる』


「爆弾?」


『グランバニッシャーは強大な力を有しているが改造された者の人間性を全く考慮しておらず、指定された者の命令しか従わないように作られている。最悪といえるのがグランバニッシャーが力を使うたびに装着者の命が奪われていく事』


「最低な存在ですね」


 様々な理由があってメタルデビルズになったゲイルとエリックだが、グランバニッシャーは異なる。


 意思を持たない危険な存在となるだろうとエリックが考えていると渡された通信端末に連絡が入った。


 画面を覗き込むと空子からのもので、ゲイルにも送信されている。


 メールには座標と一言。


 この場に集合せよ、というものだった。








































 草薙家の屋敷の一室ではこれでもかというほど二つの殺気がぶつかり合っていた。


 一つは安倍彦馬、彼は今すぐにでも術や札を使えるような状態になっている。


 もう一つはゲイル・プライド、売り言葉に買い言葉のように殺気を放っている安部に対していつでも攻撃できるという意思のためにガンブレードを畳に突き刺しそうな勢いだ。


 一触即発の空気の中で狩谷と空子は二人を落ち着けようとするが、両者とも話を聞く様子がなく耳に入っていない。


 アンジェをつれてきたエリックは油に水になりそうな予感がしたために関与しないようにしている。


 いつ爆発するかわからない空気の中で襖が開いたと同時に安倍とゲイルが同時に地面に叩きつけられてしまう。


「屋敷の中で殺気をぶつけ合う事を禁止します」


「ぐぉっ!?」


「なんだ、お前! 離せ!」


「お嬢様に悪影響を及ぼす危険があります、これ以上暴れるなら拘束してでも止めますが?」


 有無を言わせぬ口調に安倍は大人しくするがゲイルは従う様子を見せない。


「やれやれ、困ったお客様です・・・・知りませんよ」


 メイドはため息を吐くと、つま先でゲイルの鼻先を容赦なく蹴り飛ばした。


 かなり力を入れられたのか鼻先に激痛が走る。


 突然の痛みにゲイルはガンブレードを手にしてメイドに攻撃をしようとするが、それよりも速く彼女が間合いに入り込み、手刀を手に叩き込まれてガンブレードが地面に落ちる。


 落ちる瞬間、片足でガンブレードのグリップを蹴り上げて自身の手で受け止めて刃をゲイルの首筋に突きつける。


「ゲイルから離れろ!」


 友人の身に危険が及んだ事で傍観していた空子と狩谷が同時に動いて自身の武器をメイドへ向けた。


「・・・・全く、相馬ナイトに関わるとこうも面倒な人ばかり集るのでしょうかね」


 メイドはため息を吐くと片方の手にクナイを構えようとする。


「待ってください」


 戦いが起こる危険の空気に待ったをかけたのは意外にもエリックだった。


「ここで争っても我々が探している相馬ナイトの偽物が現れてくれるわけではありません、無駄な戦闘は避けるべきです」


 狩谷と空子は渋々武器を下ろす。


 メイドはちらり、とゲイルの顔を見てからガンブレードを畳の上において壁隅に移動する。


「・・・・あまりこうゆうことはやりたかねぇが情報をまとめるってのはどうだ?」


「だな、俺達の持っている情報とそっちの持っている情報で相馬ナイトの偽物の目的というのもわかるかも――」


「そのことだが」


 安倍と狩谷の会話に割り込む形でゲイルが喋る。


「相馬ナイトの偽物の名前は、クヴァシル。こちらの世界で優秀な魔術師だったらしい」


「クヴァシルですか?」


「メイドさん、知ってんのか」


「名前だけですけれど、とある魔術結社に所属していて、神の頭脳を持つ男といわれるほどに優秀だったらしいのですが、禁忌に手を出したが為に存在を抹消され処理対象になっていると聞いています」


「禁忌って、何をしたんだよ?」


 狩谷が疑問の声をあげるとメイドは少し戸惑いながらも話す。


「“魔女”を人工的に生み出そうとしたんです」


 震える声で呟いたメイドに安倍は驚きのあまり目を見開き、どういう意味なのか理解できないゲイル達は首をかしげることしか出来ない。


「魔女って、なんだ?」


「・・・・魔女というのはこの世の災厄をその身に受けて全てを滅ぼすまで止まらない史上最悪といっていい恐ろしい存在です。魔女一人いるだけで大陸がなくなるほどの力を有しているといわれ、魔女が生まれた場合、完全覚醒する前に殺すという規則があります。もし、完全覚醒する前に殺せなかったら・・・・世界が滅ぶといわれるほどです。故に魔術結社や魔術師は魔女の存在を細かく記す事を禁じています。存在を記す事を赦されないのが魔女です」


「なんだろう・・・・邪神とかと遭遇しているから今更驚けない俺達がいるんだけど」


「世界の危険度の差っていうのが異世界でここまででてくるとは驚きだわ」


 異世界メンバーは今までにおそろしい数の邪神と戦い、最近では宇宙にまで進出している。故にメイドや安倍達のいう魔女の恐ろしさというのにあまり実感がわかない。


 危険というのはわかるが、自分達ならなんとかなるんじゃないかと楽観視してしまう。


 実際のところ、魔女は邪神と同等かそれ以上の力を秘めている。


「魔女は人工的に生み出すことが出来ない、世界が怨念と激しい憎悪、大陸が血で穢れていることなどの条件によって生み出されるので、人工で造られることはない」


「それをクヴァシルというのは人工的に作ろうとしてるってことか・・・・でも、何で、アンジェや安倍の妹さんの魂を盗む必要があるんだ?」


 狩谷の疑問に誰も答えられない。


 唯一、何か知っているであろうメイドも無言を貫いている。


 そもそも魔女の存在は文献に記す事も禁止されるほどの存在、その存在を人工的に生み出そうとするクヴァシルの理論も深い闇の中に抹消されており、彼がどのように生み出すかなどわかっていない。


「あ~~~くっそ、わっかんね。そういえばメイドさん」


 がりがりと頭をかきむしるようにしてから狩谷は気になっていた事を尋ねる。


「相馬ナイト本物はどうなってんだ?」


「・・・・はっきりいいますと、普通の人間だったら四回は死んでいるほどの重傷です」


「へ?」


「ウソ」


「・・・・」


 上からメイド、狩谷、空子、そして無言を貫いているゲイル。


 ゲイルはアンジェを助ける為とはいえ、ほぼ全力で相馬ナイトに挑んだ。


 普通の人間なら死んでもおかしくはないのだ。


「ですが、あと数時間すれば回復するでしょう」


 続けてのメイドの言葉に狩谷と空子の二人はマヌケな表情を浮かべてエリックは少し驚いて目を開き、ゲイルは顔をゆがめる。


「回復って、どうゆうことだよ!?」


「そのままの意味です。ボロボロの体が自然と回復を始めているのですよ・・・・もっとも片腕に関してはお嬢様や私の治療の甲斐あって」


『ナイトさん!無茶しないでください!』


「・・・・少し席を外します」


 メイドはぺこりと一礼すると襖の外に出て行く。


 しばらくしてドタバタと激しい音がし、狩谷が様子を見ようとしにいく前に襖が開いて身だしなみが一つも乱れていないメイドが先ほどと同じ場所に座った。


「何か・・・・あったんですか?」


「いえ、重病人であるのにも関わらず助けないといけない人がいるといって抜け出そうとする愚か者を成敗していたところです。申し訳ありません・・・・」


 なんともいえない表情をしている狩谷達の前でゲイルがふらりと立ち上がる。


「ゲイル?」


「少し、風に当たってくる・・・・」





















 屋敷の中庭にでたゲイルは静かに考え事をしていた。


 時間がない中で確実にアンジェの魂を取り戻すためにどうすればいいのかわかってきている。


「(だが、アイツの力を借りろというのか?)」


 ナナシから告げられた言葉が脳裏に引っかかって離れない。


「(あんなヤツの力を借りないと取り戻せないというのか? 俺は!?)」


「あら・・・・」


 後ろに気配を感じてゲイルが振り返ると、エイレーネがこちらを見ていた。


「どうしたんですか?」


「・・・・少し、考え事だ」


「ナイトさんのことですか?」


「!?」


 思っていたことを当てられてゲイルは驚きに目を見開く。


「私、少しだけ、人の心を読むことができるんです・・・・ほんの少しですけれど」


「・・・・相馬ナイトは異常だ」


 ゲイルは少しの間を置いてからポツリと呟いた。


「自分がどれだけボロボロに、それも死にそうになるほど危険な状態になっていながらも人を助けようとする・・・・自分の命をないがしろにしてまで」


 怪物、グランバニッシャーが襲撃をしてきた時も、相馬ナイトは囚われた少女を助ける事だけしか頭になかった。


 自分がどれほど危険な状態いたというのに、それがゲイルが相馬ナイトを関わらせる事に抵抗を感じている。


「エイレーネといったな。アンタは知っているのか?相馬ナイトが人を助ける事に拘る事、自分の命をないがしろにしてまでの異常性を」


「・・・・ナイトさんは」


 エイレーネが少しつらそうな表情になっていることにゲイルは気づいた。





「大切な人を、殺しているんです」


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