7話
7月8日(水)午後12時
あさひ公園
「ママ!今日のお弁当は?」
「っ⋯ごめん、悠斗⋯今日は⋯」
「⋯ママ⋯元気ないの?大丈夫?」
「っ⋯大丈夫⋯今日は、そこのキッチンカーで買って食べようか?」
「うん!」
いつもなら癒されるはずのプチピクニックなのに、気分が晴れない。
毎日何度も掛かってくるイタズラ電話に、限界が来ていた。
「あっ⋯!田中さん、こんにちは」
声のした方を見ると、長谷川さんが笑顔で立っている。
「⋯こんにちは」
「先週もお会いしましたね」
「っ⋯そう、ですね⋯」
「⋯?どうかされたんですか?」
「えっ⋯?」
「⋯何だか、元気がないのかなと⋯」
長谷川さんの言葉に、胸がモヤモヤした。
疑心を抱いたまま、彼の顔を見る。
心配そうな顔で、ジッと見つめていた。
勝手に疑念を抱いていた事に申し訳なさを感じつつ、精一杯の笑顔を作る。
「⋯大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないですよね?⋯そんな笑顔、田中さんらしくないですよ」
「っ⋯」
「⋯僕じゃ、頼りないと思いますが⋯話を聞くくらいなら出来ます⋯話してくれませんか?」
迷っていると、優しい声が聞こえる。
「⋯話をするだけでも、楽になると思いますよ」
「っ⋯実は⋯」
戸惑いながら、イタズラ電話について話をした。
「⋯それは⋯しんどいですね⋯」
「はい⋯正直、限界で⋯」
「⋯旦那さんに、相談してみたらどうですか?」
「⋯やっぱり、相談した方が良いですよね⋯」
「僕なら、相談して欲しいですね」
「⋯相談、してみます⋯話、聞いてくれて⋯ありがとう、ございました⋯」
「いえ⋯僕で良ければ⋯いつでも話聞きますよ」
微笑みと共に、名刺が差し出される。
「これ、僕の連絡先です⋯何かあれば⋯」
「⋯ありがとう、ございます⋯」
そっと受け取り、微笑んだ。
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同日午後2時
田中宅
「悠斗、今日のおやつ何食べたい?」
「パンケーキ!」
無邪気な息子に微笑み、パンケーキを作り始める。
不意に鳴り響いた電話に、持っていた道具を落としてしまった。
慌てて拾い上げ、電話を見つめる。
「⋯ママ?電話だよ?」
不思議そうに覗き込まれ、笑顔を作った。
「っ⋯電話の間、待っててね」
「うん!」
「⋯はい⋯」
「⋯タナカ⋯マユミ⋯」
「っ⋯!」
電話口から聞こえてきた機械音声に、身体が硬くなる。
「⋯タナカ⋯ナオキ⋯タナカ⋯ミサキ⋯タナカ⋯ユウト⋯」
「っ⋯!」
身動きが取れずに居る間も、機械音声は家族の名前を読み上げていた。
電話が手から滑り落ちる。
震える手で拾い上げ、電話を切った。
「⋯ママ?大丈夫?」
思わず息子を抱き締める。
「⋯大丈夫⋯大丈夫、だから⋯」
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同日午後7時
「ただいま〜!」
「っ⋯美咲!大丈夫!?」
「⋯何が?って、お母さんこそ⋯大丈夫!?顔色悪いけど⋯」
「ただいま〜って、二人ともどうしたんだ?」
イタズラ電話の内容を、全て打ち明ける。
話し合った結果、電話を外す事にした。
これで、イタズラ電話を受けなくて済む。
安堵のため息が、静かに空へと消えていった。




