5話
7月4日(土)午前10時
田中宅
「お母さん、おはよ〜⋯」
「おはよう、美咲⋯やっと起きたの?」
「いいじゃん、休みの日くらい⋯」
「おはよ!お姉ちゃん!」
「悠斗、おはよ⋯朝から元気だね〜⋯」
「僕、早起きだもん!」
「⋯幼稚園ないのに、早起きしてんの?凄いね〜⋯」
眠そうに欠伸をする娘に微笑みながら、朝食を出す。
穏やかな朝の時間を邪魔するように、電話が鳴り響いた。
「⋯はい⋯」
「⋯⋯⋯」
無言電話だと確信し、すぐに電話を切る。
「⋯何?また間違い?」
「⋯まぁ⋯そんなとこ⋯」
誤魔化すように笑い、キッチンへと足を向ける。
家事に取り掛かったところで、再び電話が鳴り響いた。
「お母さん、私が出るよ」
「っ⋯いいわよ、お母さんが出るから⋯!」
「高校生なんだから、電話くらい出れるって⋯!はい、田中です」
「⋯⋯⋯」
「もしもし?」
「⋯⋯⋯」
「⋯切れた⋯」
娘が電話を置き、顔をしかめる。
「⋯ねぇ、お母さん⋯もしかして、最近の間違い電話って⋯」
「美咲は気にしなくて大丈夫よ⋯!」
「お母さん!私、そんなに頼りない?⋯お父さんにだって⋯ちゃんと話してよ!一人で抱え込まないで!」
「っ⋯」
何も言えず、視線を落とす。
「⋯間違い電話じゃなくて、無言電話だったんでしょ?⋯いつから?」
「⋯4日くらい前かな⋯」
娘の圧に押されるように呟き、笑顔を作る。
「大丈夫よ⋯こんなイタズラ、すぐに収まるわ⋯」
「⋯でも⋯!⋯お父さんに相談した方が⋯」
「お父さんは、お仕事で忙しいんだから⋯余計な心配させたくないの⋯」
「⋯わかった⋯でも、あんまり長く続くようなら⋯お父さんにも相談しよう?」
しっかり者の娘に、思わず苦笑を漏らした。
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同日午後12時
「美咲、悠斗⋯お昼、何食べたい?」
「パスタ!」「オムライス!」
子供達の声が重なる。
「悠斗、オムライスは夜にしよっか?」
「うん!お昼は、ミートスパゲッティ!」
「え、カルボナーラが良いんだけど⋯」
「じゃあ、それでいいよ!」
「えっ⋯いいの?」
「僕は、いつでもママのごはん食べれるもん!お姉ちゃんは、お休みの日しか食べれないでしょ?」
「⋯悠斗⋯ありがとう〜!」
息子に抱き着く娘を、微笑ましく見つめる。
カルボナーラを作り始めた頃、電話が鳴り響いた。
「⋯お母さん、私が出るね⋯はい、田中です」
「⋯⋯⋯」
「⋯あの⋯!?」
「⋯⋯⋯」
「⋯また⋯!?」
苛立たしげに電話を置く娘に、無邪気な息子が声を掛ける。
「お姉ちゃん、大丈夫?プンプンしちゃダメだよ?」
「⋯大丈夫、プンプンしちゃダメだもんね⋯」
子供達のやり取りを見て、誇らしくなった。
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同日午後2時
再び電話が鳴り響く。
「お母さん、私が出る⋯!⋯はい、田中です」
「⋯⋯⋯」
「⋯あの⋯!こういうの、やめてください⋯!迷惑なんで⋯!」
言うなり電話を切り、勝ち誇ったように笑う娘を見つめた。
これから穏やかな日々が戻ってくると信じて⋯




