山崎先輩の心配
授業が終わり、放課後になる。
渚と誠子にまた明日と挨拶を交わし、部活へと向かった。
更衣室で着替えを済ませて、剣道部が使用する体育館へと入っていく。
既に相馬先輩と二年生の先輩たちが練習をしていた。
来週の団体戦に向けて、気合いが感じられる。
関東大会はダメだったけれど、インターハイは頑張りたい。
と先輩たちの練習を見て思った。
男子の方はコウの姿はまだなく、大は病院で原田は自主規制中で谷くんは療養中である。
「おーい沖田!」
入り口で男子側を見ていると、山崎先輩が私を呼んだので、竹刀と面を持ったまま駆けていく。
「男子と練習ですか?」
とワクワクして訊いた。
「違う。昨日、試合だったんだ。今日は程々にしておけよ」
山崎先輩の台詞に思わず怪訝な表情を浮かべた。
「…何だその不満な表情は?それにしても昨日は一体どうしたんだ?沖田らしさが全くない剣道だったぞ?まぁ、優勝したから何も言えないがな…」
と山崎先輩に痛いところを突かれる。
大と斎藤さんが抱き合っているのを見て、全く試合に集中出来ませんでした。
…とは、言えない。
「…すみません。でも、もう大丈夫です。来週の団体戦はしっかり私らしい剣道を見せますよ」
と意気込む。
「そうか…それならいいが。まあ、その様子だと大丈夫そうだな」
山崎先輩が笑みを浮かべた。
「あっ、そうだ。沖田に少し相談したいことがあるんだが、今いいか?」
山崎先輩が体育館の外を指差して言った。
「はい、構いませんよ」
と頷いて、山崎先輩と一緒に体育館の外へと行く。
そして、体育館裏へとやってきたところで山崎先輩が口を開いた。
「俺たち三年生は関東大会、そして次のインターハイ団体戦で引退となる。そこでだ…次の主将を二年生ではなく一年生の土方に任せようと思うんだが、どうだろう?これは女子にも関係することだから、土方をよく知る沖田の意見も聞いておきたかったんだ」
山崎先輩の相談になるほどとなる。
「二年生はたしか二人いますが、不満はないんですか?」
と山崎先輩に訊ねる。
元々、私たちが入ってきた頃は二年生は五人いた。
でも、私との練習で自信を無くして三人辞めた…
なので、今回コウが主将になって二年生に不満が出るなら、良くないと思ったのだ。
「二人には確認した。土方はしっかりしているし、実力的にも自分たちより上だから、異論はないそうだ」
山崎先輩の返答にホッとする。
「なら、いいんじゃないですか?女子もコウなら歓迎ですよ」
と素直な意見を言った。
「そうか…近藤は大丈夫だろうか?」
「えっ、大ですか?」
「ああ、近藤は土方と幼馴染である前に実力的にも差のないライバルだ。たしかに多方面から見たら土方の方が適任だとは思うが、近藤も悪くない。ここで簡単に土方を選んでいいのか正直迷っている…近藤のメンタルを考えるなら、敢えて二年生のどちらかにやらせてもいいのかとさえ考えている」
山崎先輩が悩ましい表情を見せる。
「へぇ、色々と考えているんだ…山崎先輩も大変ですね?」
と頷く。
「…お前なぁ。他人事みたいに言うなよ…当たり前だろ俺は主将なんだぞ?一応、顧問はいるがウチにはちゃんとした指導者がいない。本当は指導が出来る顧問がいて欲しいんだが、こればっかりは難しい…」
山崎先輩が更に悩む。
私も指導者は欲しいと前から思ってはいた。
「まあ、主将の件はそんな悩まなくてもコウでいいと思いますよ?大は柄じゃないし」
「…近藤のやつ嫉妬しないか?」
山崎先輩の言葉に首を横に振る。
「大丈夫ですよ。大ならコウに嫉妬心を抱いたりしないです。まあ、試合なら別でしょうけど」
私がそう言うも、山崎先輩はあまり納得していなかった。
「…いや、俺は剣道以外でも近藤が土方に嫉妬すると思うぞ」
と真っ直ぐ私を見て言った。
「まあ、いい…一応、二人には伝えて反応を確かめる。練習前に悪かったな沖田」
山崎先輩がそう言ったので、すぐに体育館の中へと戻ろうと踵を返した。
すると、竹刀の先を山崎先輩に掴まれて、私の動きが止まる。
「こらこら…今日は程々にと言っただろ?何を勢いよく練習に戻ろうとしているんだお前は?」
顔だけ振り返ると、そこには山崎先輩の怒った表情が私に向けられていた。




