コウとの練習
山崎先輩と話したあとで、体育館に戻った私は女子の練習に参加した。
そのすぐあとでコウが体育館にやって来る。
いつもは大抵、大と一緒に来るけれど、今日は大は斎藤さんに付き添われて病院だ。
そう思いながらコウを見ていると、ふと目が合ったので小さく手を振った。
そして、再び練習に集中する。
「沖田さん。そろそろ男子の練習に参加していいよ?」
一時間が経った辺りで相馬先輩が私に言った。
「分かりました」
と答えて、男子が練習している場所へと向かう。
「山崎先輩。今日はどうしましょうか?」
いつも通り、山崎先輩に訊ねる。
「基本練習は女子でしているだろうから…そうだな地稽古をしたらいい。おい、土方!沖田の相手をしてやれ!」
山崎先輩がコウを呼ぶ。
すると、コウが私の元へとやって来た。
「地稽古だって」
私の言葉にコウが分かったと頷く。
大を含めた私たちがよくする勝敗がない実戦形式の練習だ。
「ちえとする地稽古なんて久しぶりだな?」
「そう?そう言われてみると最近はしてないかも…」
そう答えて、私は面を被って小手を着ける。
そして、竹刀を握った。
「遠慮なく行くぞちえ?」
「どうぞ?地稽古なんだから遠慮なんていらないって、好きな風に打ってきて」
と言った瞬間、コウの鋭い攻撃が私を襲う。
昨日の試合では味わえなかった鋭さに思わず興奮する。
コウの竹刀捌きに丁寧に付き合いながらも、冷静に隙を待つ。
が、なかなか大と違って、コウは隙が見つからない。
相変わらずコウはきめ細かい剣道をする。
…何でこれで坂本に負けんのよ?
まあ、それだけ坂本が強いってことだろう。
…クソッ、私も予選で戦うなら男子の方が良かった。
悔しさから竹刀捌きが少し乱れる。
と少し隙を与えた瞬間、面に思いっきり打たれた。
が、すぐに振り返り、反撃に出る。
私の…女の私の剣道が男子に通用するかどうか確かめるように勢いよく攻めていく。
この前の芹沢との戦いで、やっぱり私は女なんだと思い知らされた…
なら、せめて剣道くらいは男子と対等でありたいのだ。
けれど、私の感情に任せた荒々しい剣道では、コウには通用しない。
そして、そのあと何度も面に打ち込まれた。
◯
「悔しい悔しい悔しい…」
練習が終わり、コウと共に帰路につく。
「一撃一撃自体は悪くないんだが、なんというか繋がっていないんだよ今日のちえの攻撃は…気持ちが前に出過ぎていて、動きが手に取るように分かる」
コウの指摘にますます悔しくなる。
「…私も男に生まれたかったなぁ。やっぱり女の子はつまんない…」
と仏頂面を浮かべた。
「おいおい…何を言ってるんだ?」
コウが呆れた表情を見せる。
「…だって、男子の方が身近に大やコウといったライバルはいるし、坂本や同じ海援高校の沢村だっている。羨ましいもん…何より男子みたいなしっかりとした身体が私は欲しいんだ」
とぶーたれる。
「馬鹿言うな。少なくとも俺はちえは女子で良かったと思っている」
コウがそんなことを言う。
「何で?」
と訊いた。
「…何でってそりゃちえはやっぱり女で…男になんてなって欲しくはないからだ」
コウが少々困った顔をして答えた。
「…何それ?全然、答えになってない。ガサツで女らしさがない私だよ?絶対、性別は男の方が良かったよ…」
「…ちえはたしかに少しおてんばだが、女らしさは充分あると思う。それにやっぱりちえは女だから魅力的であってだな…いや、待てくれ自分でも何を言っているかよく分からなくなってきた」
コウがそう言って、頭を抱えた。
その様子を見てクスッと笑う。
「ごめんごめん。私が変なことを言ったからだね。たしかに男子は羨ましいけれど、やっぱり私は女の子の方が良かったと思ってるから安心して」
とクルッと回って、コウにそう言った。
その時、お母さんが好きだった私のポニーテールが揺れる。
「…それにしても、少し安心した」
私の様子にコウが安堵の表情を浮かべた。
「えっ、何が?」
思わず首を傾げる。
「…昨日、ちえの様子がおかしかったから、少し心配していたんだ。たしか、大が初戦で負けたあとで急にちえの様子が変になったように感じた。俺はてっきり自分のせいで大が怪我したことを気にしていたとばかり思っていた…」
コウがゆっくりと私に視線を向けた。
「昨日、大と何かあったのか?」
コウの質問に消えかけていたあの光景が脳裏に浮かんできた。
そのことに今日も大に斎藤さんが付き添って病院に行ったことを思い出す。
痛まなくなっていた胸が少しだけキュッとなる。
「ないよ。ある訳ないじゃない?」
と嘘をつく。
「…そうか、ならいいんだ」
とコウもこれ以上は何も詮索しなかった。
そのあとすぐに話題は週末の関東大会の話になる。
そして、私の家の前で手を振り、コウと別れた。
その後ろ姿を見ながら、私は少しだけ大のことを考えていた。




