和兄の忠告
「最低でも二週間は安静にしてろだって…まあ、普段の生活は問題ないらしいけど…ってことで関東大会には俺は出られない」
火曜日の朝、私とコウで団地の部屋まで大を迎えに行き、合流した直後に大が私たちに報告した。
「そうか…仕方ないな。関東大会は俺が大の分まで頑張るよ。来週のインターハイの団体は俺たちに出番はないし、しばらくは医者の言う通り、練習を休んでゆっくりするしかないな」
コウが真ん中にいる私越しに、大に言い聞かせる。
「なら、私が代わりに関東大会に出ようか?」
と言うと、左右の顔が私に向けられる。
「出れるか!」
大とコウが同時に叫んだ。
「うそうそ…冗談だってば」
と頭をポリポリと掻きながら言った。
「…ちえの冗談は信用出来ない」
コウが眼鏡の真ん中を押さえながら言った。
「ああ…本当にやり兼ねないとこあるしな」
大がうんうんと頷いた。
本当に二人は息ぴったりだ。
昨日、山崎先輩が言っていたことを思い出す。
大がコウに嫉妬しないか心配…?
絶対、山崎先輩の思い過ごしだ。
「この前だって無謀にも芹沢に一人で立ち向かっていったしな」
大がその話を蒸し返す。
「ああ、あれは本当にヒヤヒヤした…ちえは目を離すと何をしでかすか分かったもんじゃない…」
コウが首を左右に振る。
「原田の時も何も考えず、飛び出して行ったよな?」
大が思い出すように言った。
「ああ、行った行った。何を考えてるんだってすぐに後を追いかけたな」
コウがうんうんと頷きながら言う。
クソっ…何も言い返せない…
その時、あることを思い出す。
「あっ、そうだ。昨日の朝、大とランニングしたから、学校行く前にシャワーを浴びたんだけどさぁ…シャワーを浴びている時に和兄が話しかけてきんだよね。でね、和兄が私に…って訊いてる二人とも?」
私が話し出した直後、二人が私から顔を背けたのを見て抗議する。
「ああ…聞いてる。で、和哉さんは何て?」
コウが何故か顔を手で隠しながら、私に訊ねる。
「そうそう、和兄にしばらくは気をつけろって言われたんだぁ…なんでも私を恨んでるやつがいるかもしれないからだって。この前の騒動も誰かが私を恨んでいたから、私を巻き込んだ可能性があるみたい」
と大の方を向くと大が何故か目を逸らす。
「私を恨んでる人なんているのかな?思い当たる節はコウの取り巻きくらい」
今度はコウの方を見て言った。
「…取り巻きって言うな。クラスメイトの女子たちだ。それに彼女たちは直接文句を言うことはあっても、陰でちえを嵌めようとするなんてこと絶対にはない」
コウが私の言葉を否定する。
「本当かよ…?」
大が目を細めて、コウに視線を向けた。
「まあ、私も彼女たちがそんな陰湿なことまでするような人達じゃないと思う。じゃあ、一体誰?」
と首を傾げる。
「ちえが剣道部を辞めさせた二年生じゃないか?逆恨みの犯行かもしれないぜ」
「辞めさせたんじゃない。勝手に辞めたの!」
大の台詞に思わずイラッとして、肘で大の脇腹を突いた。
大が悲鳴を上げる。
「…馬鹿野郎!怪我してるとこだぞ!?安静にしなきゃいけないところだぞ!?」
大が脇腹を押さえながら、文句を言う。
「ごめんごめん。ついね」
と反省ゼロの謝り方をする。
「…意外に普段はそういうのを見せていない可能性もあるかもしれない。ちえが悪いわけじゃなくても、気に食わないからと一方的にちえを妬んでいるとかな」
コウが真剣な面持ちで言う。
「意外な人物が犯人…谷くんとか?」
顎に指を当てて、谷くんの顔を思い出す。
「…いや、谷が犯人だったら、それこそアカデミー賞ものだろ?あんなにやられて、演技なんて凄すぎるわ…」
大の指摘にそうだよねぇと頷く。
「まあ、本当にちえのことが憎いなら、また何かしら仕掛けてくる。和哉さんはそれを気をつけろって言ってるんだと思うぞ。だから、何かあったら一人で突っ走らずにまずは俺たちを頼れ。いいな?」
とコウが私にそう言い聞かせた。
「土方くんっ!」
後方からコウを呼ぶ声がする。
しかも、一人ではない。
振り返らなくても、コウの取り巻きだと分かる。
自然に私と大がその場から離れていく。
その後、斎藤さんと出会い、その直後に原田に捕まった。
なので、私たちは別々に校門をくぐる。
…それにしても、誰が私を恨んでいるんだろ?
この日は部活まで、そのことが頭から離れなかった。




