翌日
「ちえ、ちょっといいか?」
大が私に訊いた。
「ん…何?」
視線を大に向ける。
すると、大の隣に斎藤さんが立っていた。
二人はくっつくように並んで立っていて、斎藤さんの肩に大の手が置かれている。
…話って何だろ?
と不安な気持ちで二人を見た。
「俺たち付き合うことになったから、その報告をしようと思ってな」
にこやかな顔で大が言う。
「…そ、そうなんだ」
私はどんな表情をしている?
ちゃんと普通の顔出来てる?
「沖田さんも祝福してくれるよね?」
斎藤さんが私に訊いた。
「勿論、おめでとう…いや、お幸せにかな?」
と懸命に笑った。
「まっ、そう言うことだから、ちえとはこれからも幼馴染としてよろしく頼むわ」
大が馴れ馴れしく私の肩をポンっと叩く。
「じゃあな、ちえ」
大がそう言って私に手を振り、斎藤さんと楽しげにしながら私から離れていく…
良かった…良かったじゃないか。
と思っているのに、私は二人の後ろ姿を追うように手を伸ばした。
「待って…待って大!」
その瞬間、大きな衝撃が私を襲う。
目を開けると、絨毯に頬をつけたまま見慣れた景色が目に飛び込んできた。
…どうやらベッドから落ちたようだ。
大きなため息を吐いて、ベッドの横にある時計に目をやる。
まだ、五時か…
そう思って、ベッドに再び潜る。
…が眠れそうにない。
仕方なく、ベッドから起き上がって部屋のカーテンを開け、外を眺めた。
外はまだ薄暗い。
いつもは誰かに起こしてもらわないとほぼ目覚めない私だ。
…なのに変な夢のせいで目が覚めたじゃない。
いや、寝相が悪いせいか…
昨日、インターハイ予選が終わった。
怪我もあって大は初戦負け、コウは三回戦で坂本に負けた。
女子は相馬先輩が二回戦で敗退。
一方、終始精神統一が出来ずに苦しんでいた私はよく分からないまま試合に挑み続けた。
正直、よく覚えていない。
だけど、私は優勝する。
優勝出来たのは嬉しけれど、あんな精神状態で剣道をし続けた事実に正直素直に喜べなかった。
…まあ、本戦だったらすぐに敗退してしまっていただろう。
決勝の試合が終わった直後、真っ先に祝福してくれたのは大だった。
「おめでとう、ちえ。よく頑張ったな」
笑顔でそう言ってくれた。
それから話をしようと声を出そうとしたタイミングでコウや山崎先輩、相馬先輩ら剣道部員が嬉しそうに駆け寄ってきてくれたので、大とは結局話せていない。
勿論、斎藤さんからも祝福の言葉をもらった。
しかも、自分のことのようにどこかいつも大人し目の斎藤さんが興奮気味に喜んでいたのだ。
その様子に何だか罪悪感を感じてしまい、それを悟られないように懸命に私は笑顔を作っていた。
試合が全て終わると、すぐに表彰式と閉会式が行われた。
男子は海援高校の坂本が優勝で、決勝戦で坂本に負けた同じく海援高校の沢村が準優勝で、この二人が私と同じく本戦に出場となったのだ。
「じゃあ、沖田。また本戦でな」
帰り間際、坂本に肩をポンっと叩かれた。
その時、私と一緒に本戦行くのが、大とコウでないことに少し寂しさと悔しさを感じていたのは二人には内緒だ。
全員で学校に戻り、山崎先輩の話を少し聞いてから解散となった。
解散になったあとで、校門に原田と谷くんの姿があったことに驚いた。
結果はコウが携帯電話で知らせていたようで、私を見るなり原田が大事を上げて祝福してくれたの記憶が蘇ってくる。
相変わらず暑苦しくて恥ずかしかったけれど、私の試合を気にしてくれたことに嬉しさを感じていたのは事実だ。
そして、そのあと大とコウの三人になった。
斎藤さんと帰らなくていいの?…とは言えず、いつものように三人で並んで帰った。
でも、話していた内容はなぜか原田の話で、結局二人と別れるまで試合の話は出来なかったのだ。
薄暗い景色を観ながら、昨日の出来事を思い出していた。
そして、割と声を上げて伸びをする。
「さてと…せっかく早く目が覚めたから、学校に行く前にひとっ走りして来ようっと」
と言って、パジャマからランニングの時に着ているジャージへと着替えて一階へと下りていくと、既に起きていた婆ちゃんにびっくりされた。
「今日は雨かしらね…」と言う婆ちゃんを横目に私は玄関の扉を勢いよく開けた。
そして、走り出そうとした時、誰かが近づいてくる。
その人物に咄嗟に視線を向けた。
「えっ、大!?何でここにいるの?」
と同じくジャージ姿の大へと問いかけた。




