どうした私?
あれからどれくらいの時間が経ったっけ…?
たしか、コウの初戦を観てた筈だ。
見事な二本先取だった。
それから…?
えっと…たしか…
と考えていると、面に強い衝撃を受けてハッとなる。
「面あり!」
主審の宣告に我に戻る。
しまった…もう試合が始まっているんだった。
すぐに残心を忘れずに構える。
「止め!」
相手に竹刀を構えたまま開始戦へと戻る。
…やばっ、一本取られた!
「始め!」
再開の合図に素早く身体を動かす。
相手の視線が私に追いついた瞬間、激しく動いて声を上げた。
「面あり!」
一本だ。
そして、私は次も胴に鋭い一閃を入れて、一本を取る。
…なんとか逆転勝ち出来た。
退場したあとですぐに面を取り、安堵の表情を浮かべる。
「大丈夫かちえ?何かあったのか…?」
すぐにコウが私に近寄って、心配な顔を浮かべた。
その横で相馬先輩も心配な眼差しを私に向けていたのだ。
まあ、あんな見事な棒立ちをしてしまったらこうなるか…
「…まあ、あったと言えばあったな。でも、大のことはちえの責任じゃない。あの騒動は裏で誰かがちえを嵌めようとして巻き込まれたものだ。ちえを助けようとして負った怪我だとしても、ちえの責任じゃないだろ?」
コウが様子のおかしい私に語りかける。
きっと、大が怪我をして初戦負けをしたことに、私が責任を感じていると思っているようだ。
違う…そうじゃない。
ん…?
いや、そうだ…それ以外何があるの私?
その瞬間、あの光景が頭の中に蘇る。
泣いていた大を斎藤さんが抱きしめていた光景を…
違う…!
別に…私はなんとも思っていない…ただ、少し驚いただけ…
「おい、ちえ。俺の話を聞いているのか?」
コウの声にハッとなる。
…また、ぼっーとしていた。
「…うん、聞いてるよ。分かってる…別に責任なんて感じてないよ。だから、大丈夫…心配しないで」
と精一杯の笑顔を作ってみせる。
「…あんなの見せられて心配するなと言う方が無理だろ。まあ、とにかく試合に集中しろよ?じゃあ、俺はそろそろ次の試合場へ向かうからな」
心配そうな顔をしたままコウが私から離れていく。
「私も行くね?なんとか初戦は勝てたけど、次は難しいかも…でも、目標は決勝で沖田さんと戦うことだから、次も負けられない。だから、沖田さんも試合に集中して、負けないでね?」
相馬先輩がそう言って、私の肩に手を置いてから踵を返した。
コウも相馬先輩も自分の試合があるのに、私の心配をしてくれている…
私、馬鹿だ…
相馬先輩の後ろ姿を見ながら、そう思った。
次の試合の前にコウの試合を観に行こうと思ったが止めておく。
コウなら次の試合はなんなく勝つ筈だ。
でも、三回戦はあの坂本…
その試合は絶対に観るつもりだ。
今はとにかく自分の心配をしよう。
次の試合場の前で待機する。
その試合場で行われている試合を眺めながらも、気づくと私は別のことを考えていた。
…大は泣いていた。
私の前でじゃなくて…斎藤さんの前で…
もし、斎藤さんより先に私が大の元に辿り着いていたら、大は私の前で泣いたのだろうか…?
そして、私は大を斎藤さんみたいに抱きしめたりしたのだろうか…
「沖田!」
面を抱えたまま、ぼっーとしていると私を呼ぶ声が聞こえる。
山崎先輩だ。
「何をしている?次はお前の番だぞ?早く準備しろ」
山崎先輩に言われて、慌てて面をかぶった。
「…大丈夫か沖田?ちゃんと試合に集中しろ。いいな」
山崎先輩が厳しくもどこか優しげな口調で私に言った。
次は三回戦…ぼっーとしていて勝てる相手じゃない…
と頭では分かっている。
でも、精神統一がまるで出来ていない…
こんな心が乱れたままで、私ははたして勝ち進むことが出来るの?
…一体、どうした私?




