私のせいだ
試合会場を見渡しながら、大を探す。
「こっちだ沖田」
山崎先輩が私に声を掛けて、大がいる方を指差した。
すると、丁度試合が始まるところだったことに安堵する。
剣道において過度な声援や助言はNGだ。
なので、一度試合場に入ると己の力のみで戦うしかない。
そして、応援する側は祈るしかないのだ。
始めの合図で大が動いた。
大が積極的に向かっていく。
そして、鋭い一撃を相手の面に炸裂させる…と思ったのに、大の竹刀は何故か止まった。
えっ…?
その隙に相手のカウンターが大の胴に入る。
「胴あり!」
嘘でしょ…大が一本取られた…
「…あいつ、いつものキレがないな」
隣に立つ山崎先輩が心配する。
「なんか怪我してるみたいですよ山崎さん」
急に後ろから声が聞こえてきた。
振り返るとそこには海援高校の沢村が立っていたのだ。
「…みたいだな」
沢村の言葉に山崎先輩が顔を顰める。
…きっと芹沢との戦いでどこか痛めたんだ。
「…あれじゃ無理だ。本人は気づいていたんじゃないですか?」
沢村が言う。
「おそらくな。本人が分かった上で出場したんだ仕方ない…きっと、大したことないと思っていたが、直前になって痛み出したんだろうな」
山崎先輩が冷静に語る。
そう言えば大のやつトイレからなかなか帰って来なかった…
おそらくトイレで痛みを我慢していたんだ。
心配な気持ちで大の方を見つめる。
「始め!」
主審の合図が耳に届く。
いつもより、その合図がやけに不安に感じた。
大の動きが悪いことに気付いた相手がいきなり攻撃を仕掛けてくる。
それを大が懸命に対処していく。
うん、大丈夫…動きは悪くない。
「…駄目ですね。相手の攻撃は捌けても、肝心の攻撃が仕掛けられない…せっかく順調に勝ち進んでくれれば彼とやれると思ったのに残念。どうやら本線は俺と坂本ですね」
沢村がそう言って、山崎先輩から離れていく。
その後ろ姿を睨みたかったけれど、心配で大から目が離せない…
沢村の言う通り、大は一方的に攻撃を受けるだけで全く攻撃が打てていなかった。
ただ、見守ることしかできず、もどかしい気持ちになる。
すると、大が動いた。
一か八か大が攻撃を仕掛ける。
振りがなるべく小さい攻撃を選んだようだ。
だけど、思った以上に大の動きが怯む。
その隙に相手が大の面を捉えた。
「面あり!」
主審の宣告に私は固まった。
大が初戦で負けた…嘘でしょ?
「沖田、近藤は残念だったが、勝つことだけが全てじゃない…アイツにはまだまだ時間がある。だから、気にせずお前は…って沖田どこへ行く!?」
山崎先輩が話し終える前に私は動いた。
大のところへと…
…私のせいだ。
私を助けるために大は…
大が試合を終えて、試合場から離れていく。
その後ろ姿を追った。
「沖田」
突然声を掛けられて振り返る。
すると、坂本が立っていたのだ。
「初戦終わったか?俺は勿論勝ったぜ」
と坂本が笑顔でピースしてくる。
が私の反応に坂本が首を傾げた。
「どうかしたか?」
「ごめん、今はアンタに構っている暇ない」
そう吐き捨てて、大へと視線を戻す。
しかし、そこに大の姿はなかった。
…どこ?どこ行ったの?
慌てて大がいた場所へと急ぐ。
その場所に着くとキョロキョロと辺りを見渡す。
オープンになっている体育館の出口が目に入った。
もしかして、体育館の外にいるかもしれない…
勢いよく、外へと出る。
そして、左右を見渡す。
すると、右方向に大の後ろ姿を発見する。
「いた!大…」
思わず声を掛けようとした時、私の思考が停止した。
大の向かいに誰かが立っていたのだ。
大がその人物に抱きしめられて、肩を震わせていた。
斎藤さんだ…
すぐに踵を返す。
そして、体育館へと戻った。
「ちえっ」
体育館に戻った瞬間、コウに声を掛けられハッとなる。
「あっ、コウ?あれ試合は?」
「まだ少し時間がある心配ない。ちえの試合観たぞ。良い試合だった。大は残念だった…この間の騒動で怪我をしてたのかもしれないな…」
コウが残念そうに言った。
「大はどこだ?一緒じゃなかったのか…?」
コウの質問に首を横に振る。
「大は大丈夫。斎藤さんが一緒にいたから」
そう答えてから、コウの手を引っ張った。
「さあ、大の分まで私たちが頑張らないとね。行くよコウ」
…そうだ。
大には斎藤さんがついている…だから問題ない。
私は私で頑張らないといけないんだ。




