初戦
垂を付け、銅を付けて頭に手拭いを巻き、面下姿で相馬先輩が持って来たトーナメント式の対戦表に目をやった。
勿論、私と相馬先輩は逆の山である。
あとはこれと言ってピンと来ない。
知っている名前はちらほらいるけど、中学時代女子の場合は全国に行かないと、強者と呼べる対戦相手には巡り会えなかったからだ。
だからと言って、決して慢心している訳ではない。
この予選で伊東さんを超えるような選手に出会えるなら願ったり叶ったりだ。
私はヒョイっと立ち上がり、山崎先輩が持っている男子のトーナメント表を覗き込む。
「ふーん…坂本とは大は逆の山でコウは順調に勝ち進めば三回戦で当たるんだ?」
と私は男子の方が気になっている。
「…おい、沖田。お前は男子のを見なくていい。自分の試合に集中しろ」
山崎先輩が呆れたようにため息を吐く。
私は気にせずにコウへと視線を向けた。
「頑張ってコウ。坂本に負けちゃダメだよ?私は決勝でコウと大が戦うことを期待してるからね」
私のエールにコウが薄く笑った。
「おいおい、そいつはプレッシャーだな?まあ、坂本には負けるつもりはないから、期待しておいていいぞ」
とコウが私の頭に優しく手を置いた。
次に大にもエールを送ろうとしたが、そこに姿はない。
「あれ?大は?」
キョロキョロと辺りを見渡す。
「あっ、近藤くんならさっきトイレに行くって言って、一人で行ったよ」
斎藤さんが教えてくれる。
「そうなんだ。まっ、帰って来たらでいいか…」
と元の場所に戻った。
にしても、男子は女子のほぼ二倍の人数だから、やっぱり男子の方が圧倒的に優勝までのハードルが高い。
そのことに思わず苛立つも、試合前だからと雑念は捨てて、精神を統一させた。
そして、開会の時間が来たため、出場選手は体育館中央に集合し整列する。
大が戻ってきたのが間際だったため、大にエールを送ることが出来なかった。
開会の辞、会長挨拶、審判長からの注意が終わり、いよいよ試合が始まる。
ここからは割とテンポ良く進むから忙しない。
早速、私の初戦が始まった。
「沖田さん頑張って!」
今日は応援の二年の先輩たちが私にエールを送ってくれる。
それを背に私は面を付け、甲手を身につけて竹刀を持ち、立礼の場所へと向かう。
互いに向かい合い、呼吸を合わせて頭を下げて目礼をした。
三歩進んで開始線に立ち、竹刀を抜き合わせる。
蹲踞で待機し、主審の「始め」の合図で立ち上がり試合が始まった。
私は気合いを入れて声を出す。
そして、真っ向から相手に向かっていく。
私は相手の面を竹刀で勢いよく打ちながら、同時に声を出した。
その瞬間、主審の旗が勢いよく上がる。
「面あり!」
すぐに残心の構えを取った。
「止め!」
主審の掛け声に相手に正対したまま開始線へと戻る。
「始め!」
再び試合が始まる。
今度は竹刀を当てにいく。
相手の竹刀を軽く弾き、速やかに左に移動する。
そして、隙だらけの胴を狙った。
鋭く相手の胴に打ち込み、それと同時に自分の声が面に籠る。
「胴あり!」
すぐに残心の構えを取る。
「止め!」
主審の宣告に開始線と戻り、相手と向かい合って中段の構えを取る。
「勝負あり!」
主審が私側の旗を斜め上に上げた。
蹲踞のあと納刀する。
立ち上がって帯刀姿勢のまま、立礼の位置まで下がった。
提げ刀で互いに一礼して退場する。
待機スペースに戻り、面を取った。
「良い試合だったぞ」
山崎先輩が褒めてくれた。
大とコウの姿はない。
二人ともそろそろ初戦が行われる筈だ。
次の試合まで時間がまだある。
たしか、大の試合の方が早かった。
「大の試合観てきますね?」
そう伝えると、俺も行くと山崎先輩が立ち上がった。
「沖田は自分の試合が近づいてきたら、ちゃんと戻れよ?」
山崎先輩が私に釘を刺す。
本当は相馬先輩の試合も観たいけど、相馬先輩が学校からここに来る途中に言っていた。
「私の応援はいいから、沖田さんは近藤くんと土方くんの応援をしてね」
そう言われているので、お言葉に甘えて大の応援へと回る。
まあ、初戦の対戦相手を見る限り、応援しなくても大が勝つだろう。




