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とらいあぐる  作者: おきゆむ
高校一年 春
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武田先輩

午後からの授業が終わり、放課後となった。


ここからが私の時間だ。


藤堂さんと山南さんにじゃあねと手を振って、大事な竹刀を持って廊下へと出た。


「沖田さん」


廊下へと出た途端、不意に誰かが声を掛けてきたので足を止める。


そこには見たことがない男子生徒が立っていた。


「…誰?」


首を傾げながら、その男子に訊いた。


「突然、呼び止めてごめんね。僕は三年の武田 一男かずお。少し話があるんだけれどいいかな?」


そう言って、彼は廊下の隅の方を指差した。


三年の武田。


聞いたことがある。


確か家がヤクザ家系で父親が組長だという噂だ。


明らかに周りの生徒が彼に向けている視線が違う。


でも、私はそんな偏見を抱かないし、抱きたくもない。


「はい、少しならいいですよ」


そう答えると武田先輩は嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「ありがとう」


武田先輩に促されて、廊下の少しスペースがある所へと移動する。


背が凄く高いけれど、体は細くて色白で、とても親がヤクザの組長だというイメージは湧いてこない。


「話ってなんですか?」


私がそう訊くと武田先輩がゆっくりと話し始めた。


「実は昼休みの出来事を一部始終見ていたんだ」


「えっ!?」


思わず声をあげてしまい、慌てて口を塞いだ。


…北校舎は三年の教室があるから見られていても不思議じゃない。


「大丈夫、大丈夫。他言はしないから」


武田先輩はそう笑顔で答えた。


「…本当ですか?」


再度、恐る恐る確認する。


いくら人助けのつもりだったにせよ、暴力沙汰が知れると不味い…


「ああ、本当だよ。それにそれを黙っているからどうのこうのって話でもないから安心して」


武田先輩に言われて初めてその可能性に気が付く。


自分の脇の甘さに、ついコウに叱られる画を想像した。


「僕はただ君に聞きたいことがあるんだけなんだ」


武田先輩は薄く笑みを浮かべた。


「聞きたいこと?」


武田先輩は頷いて、ゆっくりとそれを話し始めた。


「あの時、君は一人であの原田という男子生徒に向かっていったけれど恐くはなかったのかい?…こう言っては偏見になるけど、彼は見た目があれだから普通なら抵抗があると思うんだけど?」


武田先輩に言われて、首を傾げた。


「…恐いとは思わなかったですね。私は普通ではないのかもしれません」


そう答えて自虐的に笑う。


「…そんなことはないよ。例え、君が周りと違っていても、それは君が普通でないことにはならない。むしろ君が周りの人より魅力的だという証拠だよ」


武田先輩の言葉に恥ずかしさを覚え、一体どんな顔をしたらいいのか一瞬分からなくなった。


「…君なら抵抗がないかもしれないね」


「えっ?」


小さな声だったのであまり聞き取れず訊き返す。


「…いや、何でもないよ。ただ昼休みの出来事を見ていて、君にそれを問いたくなったんだ。ありがとう」


「…い、いえ」


よく分からないけれど、とにかく昼休みの出来事をこれ以上、問いただされる訳ではないことに安堵した。


「3-Cの武田 一男。以後、お見知りおきを…なんてね。もし、困ったことがあったらいつでも言って。力になれることなら協力するよ」


武田先輩は真っ直ぐこっちを見て言った。


私も真っ直ぐ先輩を見つめ返した。


「はい、ありがとうございます」


家系がってだけで偏見の目を持たれているが、実際に接してみると武田先輩は凄く優しい。


昼休みに見た目で人を判断した自分を思い出し、再度反省する。


「じゃあ、部活頑張って」


武田先輩はそう言って手を振りながら、私から離れていった。


…一体、何だったんだろうか?


原田に向かっていったのが恐くなかったのか?


ただそれが訊きたいだけで一年の教室に私を訪ねてきた?


決して悪い人ではないけれど、少し変わった人だな…


そして、武田先輩の姿が見えなくなった頃、私は思い出したように部活動へと急いだ。

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