原田③
「手を貸そうか?」
コウが冷静沈着に私に訊いた。
「結構!手出しは無用」
私は不良に向かって竹刀を構えた。
勿論、竹刀はエアーだ。
「…ふざけやがって!」
不良が私に殴りかかってきた。
それを素早く避けて、今度は背後に回り込み面を打つ。
厳密にはげんこつだ。
「…!」
不良が声にならない声をあげて、頭を押さえた。
「女だからって手加減した罰よ」
口では容赦しないと言う割には、随分と手を抜いているのが分かる。
それがこの不良の優しさだとは思うけど、劣等感に苛まれている今の私にとってそれは起爆剤にしかならない。
「…おい、コラッ!」
不良に視線を置いていると、大の声が聞こえて視線をそっちに向ける。
すると、平間という男子生徒が大の手を振りほどき、コウに体当たりを仕掛けた。
コウはそれを華麗に避けたが、その隙に野口という男子がコウの手を振りほどいて逃げる。
「待て!」
「ほっておけ、大。どうせつまらない奴らだ。相手にするな」
追いかけようとした大をコウが止める。
「…何なの?あいつらは?」
不良に絡まれているところを助けたのにあの態度?
私は首を傾げた。
「…違うんです!」
狐につままれたような気分になっていた時、突然どこからか声がした。
すると、大とコウの背後に誰かが立っているのが見えた。
小柄で少し太っている体型の男子だ。
「違うって、どういうこと?というか誰?」
私は怪訝な表情を浮かべた。
「…1-Eの谷です。…原田くんは悪くないんです」
おどおどした様子で谷という男子生徒が話した。
原田?
ああ、あの不良のことか…悪くないってどういう意味?
「説明してくれるかな?」
私の代わりにコウが谷という生徒に訊いた。
「…はい。…実は…僕はあいつらにしょっ中、お金をせびられていました。中学の時の同級生で…またいじめの標的にされたくなかったら金持ってこいって脅されていて…たまたま、それを見かけた同じクラスの原田くんがあいつらに止めるように言ってくれたんです…だから、原田くんは悪くないんです…!」
谷という男子が懸命に語った。
…何それっ!?
心中でそう叫んだ。
「…じゃあ、何?私はあいつらからあなたを助けようとしたあの不良を勝手に勘違いして悪者扱いした訳…?」
小太りの男子がゆっくりと頷く。
…見た目が不良の癖にややこしいことをするなってば!
「…余計なことをベラベラ喋ってんじゃねぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
原田と呼ばれていた不良…いや、見た目がやや不良が頭を押さえながら吠える。
「…ごめん」
大とコウの背後で谷という男子が謝る。
「ごめん!」
それを掻き消すかのように私が原田に深く頭を下げて謝った。
「…私の勘違いだった。本当にごめんなさい…!」
私は頭を下げたまま謝り続ける。
「…もう、いいよ。別に谷を助けたかった訳じゃねぇし…ただ、谷から金を巻き上げようとしていたあいつらの表情が鬱陶しかっただけだ」
頭上で原田の言葉が聞こえる。
「…何だ…またちえの勘違いかよ。原田、悪い!俺からも謝る!ごめんなっ!」
大がそう言って、深く頭を下げた。
横のコウも黙って頭を下げる。
「…やめろっ!…もう、気にしてないって言ってんだろ…!…てか、何なんだよお前は?」
原田の言葉に私はパッと顔をあげた。
「1-Aの沖田 ちえ」
原田の顔を真っ直ぐ見て、そう答える。
「…別に名前を訊いてるんじゃねぇよ。まあ、いいや…」
原田は頭を掻きながら、背を向けて立ち去っていく。
そのあとを追うように、小太りの谷くんが追いかけていった。
「…たくっ、相変わらず無茶しやがって」
原田が去っていくのを見ていたら、大がいつの間にか横に立っていた。
反対側にはコウの姿がある。
「今回は無事に済んだものの、あまり勝手が過ぎると助けきれないぞ…」
とコウのお叱りを受ける。
「…ごめん」
しょんぼりして謝った。
…本当に反省している。
二人に迷惑をかけたことに対してもそうだが、何より自分勝手に決めつけて行動したことを…
反省しながら大とコウのあとを追い、一年のクラスがある西校舎に戻ってくる。
校舎に入ったタイミングで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




