手合わせ
「ち、ちょっと…きつい!きつすぎるよ沖田さん!?」
掛かり稽古で元立ちの相馬先輩が悲鳴をあげた。
その言葉で我に返る。
「…すみません。…つい力んじゃって」
昼休みの出来事を思い出して恥ずかしくなり、それを誤魔化そうとついつい力任せに打ち込んでしまっていた。
「…どうかしたの?今日の沖田さんなんというかいつもより変だよ?」
相馬先輩が面越しに私に話しかけた。
「…大丈夫です。続きをお願いします!」
私は仕切り直して再度掛かり稽古に集中する。
雑念が散漫していることが更に苛立ちを募らせ、このあと更に2回ほど相馬先輩が悲鳴をあげた。
「…すみません」
休憩になり、面を外してすぐ相馬先輩に謝った。
「気にしなくていいよ。誰だってそんな時くらいあるよ…逆に沖田さんもそんな時があるんだなって安心した」
相馬先輩は笑顔で優しい言葉を投げかけてくれた。
相馬先輩は二年生で、女子剣道部には三年の部員がいないため、3月に前主将が卒業してから相馬先輩が主将を務めている。
二年は四人しかおらず、今年一年生が誰も入部してこなかったら今年は団体戦が出れないと心配していたらしく、一年生は私一人だったけれど、それでも私の入部はこれで団体戦に出れると随分と喜ばれた。
相馬先輩は凄く優しい。
それでいて主将として、しっかりと部を引っ張っていっている。
正直に言うと相馬先輩や他の二年の先輩も腕前は素人に毛が生えた程度で、私には女子剣道部の練習は少し物足りなさを感じていた。
…でも、先輩達とする練習はとても楽しい。
みんな凄く一生懸命だから、その表情が好きだ。
「沖田さんそろそろ男子の方の練習に行ってきてくれていいよ」
「…でも、もう少しみんなと稽古をしたいです」
相馬先輩にそう言った。
決して気を遣った訳ではない。
「…ありがとう。でも、ダメ。沖田さんは我が女子剣道部のエースなんだから、もっともっと上達してもらわなきゃ」
相馬先輩の笑顔にこれ以上は拒めばめないと私は「はい」と返事をして、面と竹刀を持って隣で練習を行っている男子側へと移動した。
いつも、練習の前半は女子で後半から男子の方へと参加する。
「山崎先輩。今日はどうしたらいいですか?」
私は男子剣道部の主将である三年の山崎先輩の前に座る。
「…そうだな。好きなやつを捕まえて構わないから手合わせをしろ」
山崎先輩の有り難いお言葉を頂戴し、獲物を探す目で男子部員を見渡した。
すると、ほとんどの部員が私から目を逸らしたり、顔を背け始める。
いつものことながら、その態度にイラっとする。
それでも男か!
私は男子部員達を睨みつけた。
「ちえ。俺が相手になろう。だから、そんな怖い顔をするな」
逃げ腰の男子部員の中からコウがそう言いながら前に出てきた。
「…だってぇ」
口を尖らせてコウに愚痴る。
「…頼むからこれ以上部員を減らすな。まだ四月なのに既に一年生が四人。二年生が一人辞めている。女子のちえにコテンパにされて自信喪失してな…」
コウが私の目の前に座って面越しに言う。
「…そうだけどさ」
それを言われると何も言い返せない。
どうしても、女の私から見たら男の癖に!となってしまい、男子に容赦がなくなってしまう。
「俺がちゃんと相手になるから機嫌を直せ」
コウが私を納得させる。
「…わかった。でも、今日の私は機嫌が悪いから簡単には直らないわよ?」
「…昼間のことか?ちえらしいな…構わない受けて立とう」
そう言ってコウは立ち上がり、私を手合わせに誘う。
そして、面をつけてから、立ち上がりコウと手合わせを始めた。
コウの剣道はストレートな大と違って、変化球である。
表現が難しいけれど、要は大とは正反対の剣道だということだ。
私もどちらかといえば大と似ているので、私にとってはコウは厄介な相手になる。
だけど、幼い頃から竹刀を交えているので、癖が自然と分かり、全く初めての強者とする試合よりはマシだ思う。
まあ、逆にその癖をわざと利用したりして私を欺くのもコウの上手いところだ。
それがまた私の経験値となる。
コウとの手合わせは本当に技を磨くために持ってこいだ。
そのあと部活の終わる時間まで私はコウと手合わせを続けた。




