帰り道
「横で見ていたけど、今日はやたらとちえがコウに打ち込まれていたよな?」
部活帰り、私達はすっかり暗くなった帰り道を三人で並んで歩いていた。
真ん中を歩く大が私とコウに訊く。
「…そうだっけ?あまり覚えてない…」
仏頂面でそう答えた。
「今日のちえは雑念だらけで隙がたくさんあったからな」
コウが小さく笑う。
その態度に更に頬を膨らませた。
「昼間のことだろ?勘違いしたのがそんなにショックだったのかよ?」
大の質問の返答を拒むように私は何も答えない。
…ショックというか反省して凹んでいるんだ。
私はどうも考えずに突っ走ってしまう癖がある。
「まあ、それ以上は蒸し返すな大。ちえもさっさと忘れろ。そんなことくらいで心が乱れるなら高校では全国は遠いな」
コウが私に忠告する。
中学の時、私達三人は個人で全国大会に進出を果たしていた。
勿論、高校でも全国大会を目指している私にとってコウの言葉は耳が痛い。
こんな調子だと大とコウは全国大会に進出しても、私だけ地区予選で敗退してしまいそうだ。
それに団体戦においては私の失態は全員に迷惑がかかる。
関東大会はすぐだし、夏のインターハイまでもそんなに時間がある訳ではないから、今から気を引きしめなければ駄目だ。
「…分かってる。集中力を欠いて中学の時は何度か試合に負けているしね…高校になった今はそこら辺のコントロールが出来なきゃ」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「明日は俺が相手してやるよ。まあ、例え集中が出来ていても、たくさん打ち込んでやるから覚悟しろよな」
大が私を挑発する。
「たくさん打ち込まれるの間違えでしょ?」
私も負けじと挑発をし返した。
…私達は昔から仲がいい。
きっかけは近所の剣道道場に通っていたことだけど、きっとそれだけではないだろう。
私達はそれぞれ家庭環境が普通の人と異なる。
私は私が産まれてすぐに父が他に女を作って家を出て行き、その後は母を病気で亡くした。
母が亡くなってからは私や兄達にとって母型の祖父母が親代わりだ。
大には父親がいない。
母親の幸子さんは結婚をしないで大を一人で産み、ここまで育ててきたのだ。
コウは両親を三歳の頃に交通事故で亡くしている。
両親だけではなく産まれた直後の妹も一緒だった。
現在、コウは親戚の家で暮らしている。
まるで自分の息子のように大事にされていることは私達も見ていて知っているけれど、やはり本当の親子のようにはいかないようだ。
それぞれ似た者同士の環境がもしかしたら私達を繋げたのかもしれない。
…少なくとも私はそう思っている。
このあとも私達はたわいない話をしながら帰路を辿っていく。
いつもと全く変わらない光景がそこには確かにあった。




