トライアングル
「…武田先輩は背も高くて顔も整っているし、優しいから、他にたくさん女の子が寄って来るでしょ?」
と言ったあとで、武田先輩の家系を思い出す。
それが思わず顔に出てしまったのを、武田先輩に気づかれる。
「大丈夫。沖田さんが思っているほど、周囲の人は僕を差別したりはしないよ。たしかに最初、大抵の人はそういう眼で僕を見てくる。でも、こちらから誠実に対応していくうちに家がヤクザなんてことは関係なく接してくれるようになる。だから、心配しないで」
武田先輩の話になんだか良かったと安心してしまう。
「なら、その中に女の子もいましたよね?私なんかより武田先輩の家系の事情を知った上で寄ってきてくれる女の子の方が良くないですか?」
私の言葉に武田先輩がなるほどと考えだした。
ということはやはり武田先輩に好意を寄せている女の子はいるということだろう。
そりゃそうだ…こんなにも見た目も性格も良いのだから…
「…いや、今まで何人もの女性に好きだと言われたけど、一つも心は動かなかった。年上からも同級生からも下級生から言われたけど、なんか違うなって…」
武田先輩の話にやっぱりモテるんだと納得した。
「そんな時、原田くんをボコボコにした沖田さんを見て、なんか心がグッと熱くなるのを感じたんだ」
「…だから、ボコボコにはしてませんってば」
思わず目の前の武田先輩の顔を睨んだ。
「…そうだったね。とにかくあの瞬間、僕は君しかいないって思ったんだ」
武田先輩の真っ直ぐな言葉と眼差しが私に突き刺さる。
…なんとも爽やかな人だ。
「気持ちは有難いのですが…」
「今は剣道のことしか考えられない」
武田先輩が私の続きを言った。
こくりと頷く。
「原田くんの告白を断った時の台詞だね。それは分かってる。でも、僕も原田くん同様に待つよ。沖田さんが剣道以外にも青春をする時をさ」
武田先輩がにこりと笑う。
本当に笑顔が似合う人だ。
昨日、あの芹沢を一撃で倒した人とはまるで別人に感じる。
「…そんな日が、来るか分かりませんよ?」
武田先輩の言葉を否定する。
「いや、来るさ。というか、沖田さんが自覚していないだけで、もうすぐそこまで来ていると僕は思っている」
武田先輩がうんうんと頷いた。
「…そうですか?」
と首を傾げる。
「とはいえ、とりあえず今の沖田さんは日曜日のことだけ考えなきゃね?ごめんねこんな時に変な話して」
「いえ、好意を寄せて貰うのは嫌ではないので…」
そうだ…ただ、申し訳なくなるだけだ。
こんなガサツで女らしくない私に好意を抱かせることが…
「そう?なら良かった。とりあえず今は僕も陰ながらインターハイを応援してるよ。それが終わって落ち着いたら、またあらためてデートに誘っても構わないかな?」
武田先輩の質問に黙って頷く。
武田先輩には本当に感謝している分、嫌とは言えない。
それに武田先輩と話をしているうちになんだかデートくらいならしてもいいかなって思えてきたんだ。
「良かった。まあ、秋以降かな?とりあえずなんとかトライアングルの中には入ってみせるよ。じゃあ、僕はそろそろ教室に戻るね」
と言い残し、武田先輩が私の元から去っていく。
…トライアングル?
その後ろ姿を見ながら、何それ?と首を傾げた。
それと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったので、慌てて一年の校舎へと走っていく。




