気にするな
「…まずは谷だな。これはまた酷くやられたな」
「…谷くんは私を守ろうと何度も半グレ集団に立ち向かってくれたんです」
谷くんを手当を始めた永倉先生の横で怪我の理由を説明する。
「…そうか、なら名誉の負傷だな。漢を上げたな谷」
と永倉先生が谷くんの体をバンバンと叩く。
それに谷くんが堪らず悲鳴を上げた。
「ち、ちょっと先生!」
ソファから立ち上がって先生に抗議する。
「悪い悪い…ついな。それにしてもこの程度で済んで良かったなお前たち…武田に感謝するんだな」
永倉先生の言葉に武田先輩が助けに来てくれたことを思い出す。
「…武田先輩が来たのは永倉先生の差し金ですか?」
コウがやや冷たい口調で永倉先生に訪ねる。
「おいおい、差し金とは随分な言い方だな?」
永倉先生が谷くんを手当てしながら答える。
「…すみません。俺たちにちえの居場所を教えてくれたり、木刀まで用意してくれたのに随分な言い方でした…ただ、先生なら警察に言うことも出来た筈。それをしないで裏で色々と動いているのを見ると永倉先生は何だか状況を楽しんでいるような気がしてならなかったので」
「コウ!」
コウの言葉に和兄が堪らず口を挟んだ。
「良いんだ。土方の言う通りだ。普通なら警察に連絡するのが常識だ。私はそれをしなかった…ただ武田は違う。私は何も言っていない。おそらくあいつなりのネットワークを駆使して情報を得たのだろう。沖田のためにな」
永倉先生が谷くんの手当てを終えて、私たちの方を見て話した。
「…ちえのため?何で武田先輩がちえのために動くんだよ」
大が不思議そうに口を挟んだ。
「それは沖田に聞いてくれ。さあ、次は原田」
そう言って、傷を見せろと永倉先生が原田を呼んだ。
永倉先生の言葉に大とコウが私に視線を向ける。
ちょっと言うだけ言って丸投げはやめてよね…
「…私も分かんないわよ。…ただ、前に困ったことがあったら何でも言ってくれって言われたことがある。力になるからって…」
少し恥ずかしそうに俯いて答えた。
「…ったく。どいつもこいつも何でこんなガサツな妹が良いんだろうね?俺には一生理解できないわ」
と和兄がいつもの調子で茶化す。
私はみんなの前だからグッと我慢して和兄を睨むだけでとどめた。
「見た目以上にあちこち原田もやられているな。谷よりもお前の方が酷い。しばらくは安静にしとくんだぞ?」
永倉先生が原田を手当てしながら言った。
「…何から何までありがとうございます」
原田がらしくない言葉を永倉先生に向ける。
「…先生が警察に言わなかったのは俺のためだよな?もし、警察に通報していたら俺とあいつらの昔の関係も調べられて、俺はきっと剣道部にいられなくなる…いや、下手したら退学だったかもしれない」
「原田…」
原田の言葉に私も永倉先生はあえて警察に通報しなかったのだと思った。
「…どうだろうな?ただ、探偵事務所なんかをやっていると穏便に済ませられるなら済ませたかっただけだ。どうにもならなかったら迷わず警察でも何でも呼んださ」
永倉先生がどこか優しい表情で答えた。
この人、こんな顔もするんだと少し驚く。
「…すみません永倉先生。さっきは何も知らないくせに勝手なことを言いました。本当にすみませんでした」
と隣に座るコウが深々と永倉先生に頭を下げる。
「気にするな土方。お前は沖田が危険な目に遭って黙っていられなかったんだろ?」
永倉先生が少し笑みを浮かべて言う。
コウは何も答えずにスッと下げた頭を戻した。
「ところで和兄は永倉先生の下で働いてたの?」
いつの間にかソファの横に丸椅子を持ってきて、座っていた和兄に問いかける。
「ああ、そうだよ。厳密には永倉先生…永倉 夏美さんの父親である永倉 剣さんが所長だった頃からお世話になっている。まあ…昨年、剣さんが亡くなってからは急遽、お前たちの永倉先生が跡を継いだって訳」
和兄が珍しく神妙な顔つきで答えた。
いや、ほんとその柄シャツと短パン姿じゃ似合わないわその表情…
「じゃあ、永倉先生は先生と探偵を両立しているってことですか?」
私の質問に永倉先生がこくりと頷く。
「お前の兄さんにどうしてもって頼まれてな。まあ、探偵は副業だ。ちゃんと学校にも許可は得ている」
そうだったんだと納得する。
すると、色んなことが一気に繋がってきた。




