馬鹿!
そんな心配をしてしまうくらい武田先輩の圧勝だった。
すぐに芹沢の呻き声が聞こえてきたので、少しだけホッとする。
芹沢が倒れたことで、周りにいた大勢の手下たちの顔に不安が現れ始めた。
「さて、あとは誰をやればいいのかな?」
武田先輩が笑みを浮かべながら、周りを見渡した。
武田先輩の言葉で明らかに男たちの顔が青ざめていく。
すると、出入り口付近にいた者たちから順に逃げるように部屋から出て行こうとする。
だが、すぐに引き返してきた。
何故なら、出入り口からいかにも威圧感のある顔をした数名の男たちが現れたからだ。
その先頭にいたサングラスをかけた黒いスーツ姿の男が武田先輩に向かって心配の声を上げる。
「若っ!ご無事ですか!?」
「見ての通りだよ。大丈夫」
武田先輩のいつもの笑顔がそこにあった。
その時、すぐに彼らの素性にピンとくる。
武田先輩はゆっくりと出入り口へと歩いていく。
その道を空けるようにさっきまで殺気立っていた筈のチーム鴨のメンバーが避けていく。
そして、武田先輩が黒いスーツの男の肩に手を置いた。
「河合あとはよろしく」
その河合と呼ばれた黒スーツの男が頷くと、後ろにいた数名の男たちが一斉にチーム鴨の連中を捕らえにかかった。
…捕えるというよりは抑えつけるといった方が正解だ。
チーム鴨の方が人数が多いにも関わらず、武田組の方が明らかに勝っていた。
大人しく捕まる者もいれば、歯向かって倒される者もいる。
あっという間にチーム鴨は武田組の男たちに捕まってしまう。
その中に野口と平間も含まれていた。
…未だにどっちが野口でどっちが平間か分からない。
芹沢は意識が戻ったところを芹沢よりも更にガタイが良さそうな男二人に掴まれて連れていかれた。
部屋に私たち以外居なくなると原田が谷くんに肩を貸して、私の両端には大とコウが心配だと寄り添いながら、ようやくここから出ることが出来たのだ。
地下の建物から出てくると、雨はすっかり止んでいた。
辺りは薄暗くなっていて、あれからどれくらいの時間が経ったのかと不安が押し寄せてくる。
「…今、何時?…ていうかここはどこ?」
私は新見にスタンガンで気絶させられてさっきの地下にあるチーム鴨のアジトに連れてこられた。
だから、ここがどこだか見当がつかない。
「今は六時をちょっと過ぎたところだ。ここはそんなに学校から離れた場所じゃないよ」
隣にいるコウが答えた。
「…あいつらから電話でアジトに沖田を連れて行ったと連絡があって慌てて駆けつけたんだ。俺がここを知っていることはあいつらも分かってたから…」
原田が谷くんを支えながら、申し訳なさそうに話し出した。
「…ごめんな。俺のせいで…もし、これが公になれば剣道部が…」
原田の口から後悔が滲み出る。
きっと、さっき武田先輩が言ったことが、原田を不安にさせたのだろう。
「…でも、心配すんな。その時は俺一人でやったってことにすっから」
と原田がふざけたことを言った。
「馬鹿!アンタはもう剣道部の一員なのよ!例え一人でやったと言っても、部の全体の責任…対外試合禁止は免れないわ」
私が咄嗟に原田を叱咤する。
「…そうか。本当に悪かった…俺なんかが部に入ったばかりに…」
「馬鹿!だからアンタは馬鹿なの!」
大とコウの横で遠慮なく叫ぶ。
「原田は谷くんと私のために喧嘩した。確かに喧嘩は良くないけれど、原田のしたことは悪くない。昔の原田がどうだったかは知らない。でも、今日の原田は悪くない。それに原田が問題になるなら私がしたことも十分に問題よ。芹沢を木刀で殴ったんだから」
「…沖田」
「違いない。ちえも俺もコウも暴力沙汰を起こしちまったな…でも、後悔はない」
と大が清々しく言った。
「…まあ、やってしまったことは仕方がない。あとは武田先輩がなんとかしてくれることを祈るしかないな」
コウが相変わらず冷静に状況を分析する。
「とりあえずどうしよう…?学校に戻る?」
私の提案に全員が少し躊躇した。
こんな格好で学校に戻れば問題になる可能性がある。
…でも、みんな怪我しているし、学校に行くのが一番良いようにも感じた。
「…ん?ていうか大とコウは何でここが分かったの?」
そうだ、原田は迷惑がかかると二人には知らせていない筈。
なら、どうして大とコウが助けに来れたのだろう。




