芹沢
更に大が二人に並んで新見に立ちはだかった。
「…馬鹿言え。こいつは俺の獲物だ。ようやくこいつの扱いにも慣れてきた。すぐに片付けるから横で見物していろ」
とコウが大と原田を手で追い払いながら邪険に扱う。
三人と向かい合うように木刀を構えて立つ新見がその様子を苛立ちながら見ていた。
「…ふざけやがって」
新見が舌打ちをして、コウに向かっていく。
コウがさっきまでよりも確実にその攻撃を捌き、更に反撃を加えた。
コウの木刀が新見の腹を掠める。
その状況に新見の表情に余裕がなくなっていく。
もう新見に勝ち目はない。
三人の勝ちだ。
そう安堵した時、バーカウンターのある空間の更に奥にある扉が勢いよく開いた。
扉が壁にぶつかる激しい音に、その場にいた全員の視線がその方へと集まる。
勿論、私もそっちに視線を注いだ。
「さっきから五月蝿えぞテメェら…折角、人が気持ち良く寝てたのによぉ」
欠伸をしながら大柄の男が奥の部屋から乱れたシャツを整えながら出てきた。
奥の部屋にソファの上に座っている裸の女性がチラッと見えたので思わず赤面してしまう。
…こんな騒ぎの横で何やってたのよ!?
「芹沢さん!?」
新見が少し怖れた表情を見せる。
仲間が出てきたのに関わらず、新見の顔には安堵の色はない。
…こいつが新見が言っていたチーム鴨のリーダーの芹沢。
その身体つきから既に強さが窺える。
「…芹沢」
原田の表情が一気に曇っていく。
「何だ?知り合いか?」
大が原田に訊く。
「ああ。こいつらのリーダーで、その強さは半端ねぇ。一言で言えば化け物だ…」
原田の言葉に部屋の雰囲気が一気に変わった。
「新見…何だこの光景は?全員やられているじゃねぇか?…ん?原田か?お前、原田じゃねぇか!」
芹沢が原田に気づいて明るい声を出した。
「そういや、原田をどうとか言ってたな…それがこの様か新見?」
芹沢という男の口調が一気に恐いものへと変わる。
その瞬間、新見が横に吹き飛んだ。
新見が激しく倒れる音が部屋に響く。
芹沢が横から新見を蹴り飛ばしたのだ。
「…せ、芹沢さん…すいません」
新見がゆっくりと上体を起こして、蹴られた横腹を押さえる。
あの新見にがひと蹴りで…
その強さにさっきまでの勝利ムードが一気に傾いた。
「久しぶりだな原田。どうだ?あらためて俺のチームに入らないか?」
芹沢がズボンのポケットから煙草を取り出して火をつける。
煙草の煙が上がり、私のところにもほのかに煙草の匂いがした。
「…嫌だね。今は部活が楽しいんだよ…それに俺は何かに一生懸命になってみてぇんだ…だから、アンタのチームには入れねぇ」
原田の返答を芹沢が煙草を吹かしながら黙って聞いていた。
その間、この広い部屋に静寂が訪れる。
その静寂を破るように芹沢が煙草をバーカウンターのテーブルに煙草を押し付けて火を消してから、ゆっくりと口を開いた。




