谷くんの度胸
お願い助けて…
「うおぉぉぉ!」
心の中で大とコウに助けを求めてしまった瞬間、谷くんの叫び声が聞こえた。
目を開くと谷くんがナイフを持つ新見の手を掴んだのが目に入ってくる。
「谷くん!?」
私の頬からナイフが離れる。
谷くんは必死に新見からナイフを奪おうとしていた。
「テメェ!」
それに気づいた平山が谷くんを蹴り飛ばす。
「谷くん!」
谷くんが私の前に転倒する。
だけど、谷くんの腕にはナイフが握られていた。
新見がそれに気がついて目を剥く。
私の前で倒れている谷くんが新見に向かってへへへとばかりにニヤついた。
新見がナイフを奪い返そうと谷くんに近寄ってくる。
しかし、新見に誰かがぶつかって、新見がよろめいた。
「でかした谷!」
原田が蹴り飛ばした男が新見に当たったのだ。
正確には原田が意図的にぶつけたのだろう。
私の頬にナイフが離れたのを確認した原田が反撃したのだ。
原田が取り囲まれた状態から抜け出し、私と谷くんの前まで飛んで来て盾になる様に新見たちに向かいあった。
「…まさかそのデブにそんな度胸があるなんてとんだ誤算だったぜ」
新見がそう言って舌打ちをした。
「…ああ。こいつはこう見えてすげぇ男気があるやつなんだよ。なにせ俺と同じ新撰高の剣道部員だからな」
原田が自慢気に語る。
「…原田」
思わず目頭が熱くなる。
「もう大丈夫だ沖田。すぐにコイツらを片付けて部活に戻らせてやるからな」
背中越しに原田が私に言った。
原田の背中が凄く頼もしく見える。
原田の癖に…と心中で悪態をつく。
「…おいおい。手負いの身分でここにいる全員を一人で相手に出来ると思っているのかよ?」
憎たらしい人相で新見が原田に向かって言った。
新見の背後にはぞろぞろとこの広い部屋の中にいる者たちが集まってくる。
原田がやって来た出入り口以外の扉からも何人か出てきて、ちゃんと数えてはいないが、ざっと二十人くらいはいるだろう。
この部屋の中にいて新見の背後にいない者が約2名出入り口付近にどうしていいか分からない状態で立っていた。
野口と平間だ。
新見の言う通り、本当に下っ端要員だったということが二人の表情から窺える。
…今はあんな奴らのことはどうでもいい。
とにかく原田だけではいくらなんでも無理がある。
…あの新見という男もそれなりに強そうだ。
せめて私が応戦しないと…
すぐに目の前に倒れている谷くんに視線を注ぐ。
すると谷くんがそれに気づいて私と目が合う。
私はうつ伏の状態で後ろで結ばれた手をジタバタと動かした。
谷くんが私の意図に気がついたようなを見せる。
「…ちょっと待ってて」
谷くんが懸命に痛みを堪えながら体を起こす。
その時、原田の咆哮がこのフロア内に響き渡る。
それと同時に原田が新見たちに突っ込んでいく。
原田の咆哮に新見の背後にいた者たちが怯むのがここからでも窺えた。




