デートの服装は決まったか?
放課後、部活に行く途中の道の向こうに永倉先生の姿が見えた。
すぐに嫌な予感が全身を襲う。
しかし、私に目を合わせる訳でもなく、平然と歩いてくるので、私はやや避けるように左側を歩く。
すれ違う直前にも、話し掛けてくる様子がないことに安堵するが…
「デートの服装はもう決まったのか?」
不意打ちのように、すれ違い直後に永倉先生の悪魔の囁きが聞こえてきた。
「なっ!?」
立ち止まり、慌てて振り向き永倉先生に視線を注ぐ。
すると、永倉先生が立ち止まり、したり顔でこちらを振り返る。
その時、私は一気に石化したような恐怖を覚えた。
「相変わらずいい反応をするな沖田は」
悪戯っぽい表情を浮かべながら、永倉先生が私を嘲笑う。
「な、何で先生がそれを知ってるんですか!?」
「ん?本人から聞いた。なんか嬉しそうにしていた原田を見掛けたんで声を掛けたら教えてくれたぞ。嘘だと思うなら原田に直接訊いてみたらどうだ?」
ニヤニヤと永倉先生が答える。
原田の奴…!
私は右手で顔を見て覆いながら、ため息をついた。
「まあ、せいぜいお洒落して思いっきり青春してこい。華の命は短いからな」
アンタはオッサンか…
心中で毒突く。
「…明らかに揶揄ってますよね?」
冷ややかな目線を永倉先生に向ける。
「おいおい、心外だな…私は可愛い生徒たちの青春を応援しているんだよ。応援をな」
永倉先生が人差し指で眼鏡を直しながら言った。
「…お願いだから応援せずに温かく見守ってください」
私は囁くように言った。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもありません」
この人に何を言っても無駄だと分かっているので、素直に諦める。
「まあ、月曜日にはデートの話を聞かせてくれよ」
永倉先生が眼鏡を光らせて、親指を立てた。
「…話しませんよ。では、部活があるんで失礼します」
これ以上話しても疲れるだけだと踵を返し、先生に背を向けて歩き出す。
「保健室で待っているからな!」
背中越しに楽しげな声が聞こえてくる。
…ああ、今日は剣道に集中出来る気が全くしない。
これも全ては、私が原田を軽んじたことが原因か…
私は知らぬ間に慢心していたのだろうか…?
そうだったら、精進せねばならない。
左手で拳を作り、力強く自身に言い聞かせる。




