心配か?
私が引き起こした騒ぎによって、いつもより帰宅する時間が遅くなった。
辺りが薄暗くなったこともあり、大は斎藤さんを家まで送ってあげるため、横にはコウしかいない。
「ちゃんと送ってあげなさいよっ。あっ、大が少しでも変なことをしたら私に言ってね。明日、私がぶん殴ってあげるから」
校門で大と斎藤に向けて言った台詞を思い出す。
「…心配か?」
「えっ…?」
隣を並んで歩くコウが訊いてきた。
「大と斎藤さんだよ」
「…ああ。うん、心配!大が斎藤さんに変なことをしないかねっ」
私はうんうんと頷く。
「…いや、俺が言った心配はそうじゃないよ。大と斎藤の仲が心配かって意味だ」
コウの言葉に思わず足が止まる。
だけど、すぐに歩みを進めた。
「何で私が?むしろ上手くいって欲しいわよ。大切な幼馴染の恋が成就するんだよ?そういう意味では上手くいくか心配よね」
「…そうか。まあ、恋が成就するかは、あくまでそこに恋心があればの話だけどな…」
「へっ…?」
「…いや、いい。変なことを訊いて悪かったな。ちえを困らせるつもりはなかったんだ…」
コウはそう言って、少しだけ私から顔を背けた。
「…コウはどうなの?」
私は伊東さんの言葉を思い出した。
「ん?どうとは?」
「伊東さん。あの人、コウのことが好きみたいだよ…」
少し遠慮気味に口にする。
「…知ってるよ」
コウが即答する。
「どうするの?気持ちに応えてあげないの?」
続けて質問する。
今度はなかなか返事がなく、しばらく私たちの足音が辺りに響く。
「…ちえは俺が伊東さんの気持ちに応えても平気なのか?」
ゆっくりとコウが口にした。
それに、私もすぐに返事をせずに溜める。
しばらくして、答えようと口を開く。
「…コウが良いんだったら応援する。だって、幼馴染だもの」
私の答えをコウは真っ直ぐ前を見ながら聞いていた。
「…そっかぁ、幼馴染だもんな」
一呼吸置いてからコウが笑みを浮かべて言った。
「…うん。だから、大が斎藤さんを好きなら私は全力で応援するよ」
私も笑みを浮かべてコウに言った。
ただし、目は合わせずに…
「…まあ、今のところは伊東さんの気持ちに応えるつもりはないさ。理由はちえと一緒だ。今の俺は剣道のことしか頭にないからな」
「…そうだよね。変なこと言ってごめん。大もコウも関東大会の個人戦と本戦が控えてるもんね」
私の言葉にコウが深いため息をついた。
「…何を言ってるんだ。本戦の前に早くもインターハイの個人予選が控えてるだろう?ちえものんびり構えている暇はないぞ」
「分かってますとも。六月なんてすぐだもんね」
…そうだ。
六月入ればすぐにインターハイの個人戦の予選だ。
そのあとは関東大会の本戦で、すぐにインターハイの団体戦が控えている。
インターハイは関東大会と違って、初めから個人戦に参加出来るから、関東大会みたいなことはない。
グッと右手に力が入る。
「その様子だと心配はなさそうだな。正直、ちえの言う通り、今は恋なんて言っている暇はない。きっと、大もな」
コウの言う通りだ。
そのことに随分と安堵してしまう。
「さて、明日はちゃんと練習するぞぉ」
私の意気込みに、思わず隣を歩くコウが笑い出す。




