三本勝負④
彼女が冷たい口調で頭を下げている先輩たちに向かってそう言い放つ。
…確かに伊東さんが部に入ってくれたら私も凄く嬉しいけれど、頼んで入ってもらうのはなんだか違う気がしたんだ。
だから、私は先輩たち同様に頼むでもなく、かといって先輩たちを止めることも出来ず、ただ立ち尽くすしか出来ないでいた。
「そういうことですので、これで失礼しますわ」
伊東さんはそう告げて踵を返し、出口の方へと再び歩き始めた。
それを見て、ゆっくりと先輩たちが残念そうに頭を上げていく。
私はそれを視界に入れながらも、伊東さんの後ろ姿を見続けていた。
すると、その後ろ姿がピタリと止まる。
「…まあ、沖田さんがインターハイで優勝したら考えて差し上げてもいいですわね」
伊東さんが振り返らずに言う。
そして、すぐに歩き始めて、入ってきた時同様にギャラリーの群れが左右に割れて、その間から付き人を連れて体育館から出ていった。
彼女が出ていくとすぐにギャラリーは退散していく。
いつの間にか永倉先生の姿も消えていた。
インターハイ優勝…
伊東さんの言葉に自然と右手に力が入る。
「沖田さんっ」
出口を眺めていたら、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。
「山南さん!?」
いつの間にか山南さんが私の横まで来ていた。
「み、見たよ!試合凄かった!沖田さんってあんなに強かったんだね!」
若干、興奮気味に山南さんが顔を近づけてきた。
私は仰け反りながら、山南さんの両肩を押さえて落ち着かせる。
「あ、ありがと。見てくれてたんだね。あれ?山南さんだけ?藤堂さんは?」
いつも山南さんと藤堂さんがセットというイメージがあるので、思わず訊いた。
「いたよ。さっきまで一緒に見ていたんだけど、いつの間にかいなくなってたの」
山南さんが首を傾げながら答えた。
「…そっかぁ。二人とも応援ありがと」
「ううん。私はただ見ることしか出来なかった…試合前に何か声をかけようとしたけれど、変にプレッシャーをかけてもダメかと思って、結局何のエールも送れなかったもの…」
少し申し訳なさそうに山南さんが頭を下げた。
その頭に手を伸ばす。
「…それでも、見ていてくれていたことはとても嬉しいよ」
山南さんの頭を撫でながらそう答える。
「…沖田さん」
山南さんが顔をあげて私を見た直後、気付くとギャラリーに私は囲まれていた。
「すげぇ、試合だったぞ沖田!」
「沖田さんって凄いんだね!インターハイ応援しに行くね!」
「沖田さんかっこいいっ!」
たくさんの声に私はただただ応えるのが必死で、気付けば山南さんの姿が見えなくなってしまっていた。
その後、一時間くらいしたところでようやく練習が再開出来たのだが、私は勝手なことをしたことで山崎先輩にたっぷりと説教を喰らい、練習に戻れたのは練習終わりの10分前だ。
その10分はコウと手合わせをして終える。
散々だったけれど、伊東さんと試合を出来たことはとても満足しているし、後悔はしていない。
また、あんな熱い試合がしたいなと思いながら、私は帰り支度を始めた。




