三本勝負③
剣道を馬鹿にしていた人だとは思えないくらいに…
コートから出て、すぐに体育館の隅に座って面を外す。
「やったな沖田!完勝じゃねぇかっ!」
原田が私の肩を馴れ馴れしく叩きながら言った。
その間に入り込みように大が横に現れる。
「実にちえらしい良い試合だったぜ」
大が笑みを浮かべる。
「沖田さん!良かった!負けたらどうしようかと思ってたのよ!」
大の反対側に気がつくと相馬先輩と二年生の先輩が立っていた。
「…勝手なことをしてすみませんでした」
私は申し訳なく思い先輩たちに頭を下げた。
一緒に戦う仲間になんの相談もなく、負けたら部活を辞めなければならない試合に挑んだのだから、本当に自分勝手だった思う。
「謝らないで!ちゃんと勝ったんだからいいの…沖田さんはやっぱり強いよ!凄かった!」
相馬先輩があっさり私を許してくれた。
その優しさに罪悪感を抱く。
…もう、勝手なことは止めようと反省する。
「沖田さん」
不意に名前を呼ばれ、その方に顔を向けると、面を外した伊東さんがゆっくりとこちらに歩いてきていた。
「見事でしたわ。完敗よ」
伊東さんは薄っすらと笑みを浮かべて言った。
それは今までの相手を挑発するようなものではなく、とても優しいものだ。
おそらくこれが彼女の素なのだと思う。
「剣道を馬鹿にしたこと本当にごめんなさい」
伊東さんが私の前で深々と頭を下げて謝る。
「強かった。もし、あなたが毎日のように剣道をしている人なら2本目はあそこでは決まらなかったと思う」
伊東さんがゆっくりと頭を上げた。
「…それでも、一本は取れたという自信はあるみたいね」
伊東さんがまた笑みを浮かべる。
「勿論」
笑顔でそう返す。
「…正直な人ね。嫌いじゃないわあなたみたいな人。練習の邪魔をしましたわね。私はこれで失礼しますわ」
伊東さんはそう言って踵を返して、付き人を引き連れ体育館の出口へと歩いていく。
「ちょっと待って!」
帰ろうとする伊東さんを相馬先輩が引き止めた。
相馬先輩が伊東さんのところまで走っていく。
「…なんですの?」
振り返り怪訝そうな表情で伊東さんが彼女より背の低い相馬先輩を見下ろす。
すると、いきなり相馬先輩が深々と伊東さんに向かって頭を下げた。
「お願いです!剣道部に入ってください!」
相馬先輩が頭を下げたまま、大きな声で伊東さんに剣道部に入るよう懇願する。
堪らず、私もそこへ駆け寄った。
「…お願いします。今のままでは私たちは一回戦も突破出来ません…せっかく沖田さんのように強い子がいても、私たちでは彼女を勝たせてあげることが出来ないんです」
相馬先輩が頭を下げたまま続けて話す。
「…先輩」
私がどう声を掛けていいか分からずにいたら、他の二年の女子部員も駆け寄ってきて、相馬先輩同様に伊東さんに頭を下げた。
「お願いします!」
二年生なのに、一年生の伊東さんに敬語で頼み込んでいる先輩たちの姿に心がキュッとなる。
「嫌ですわ」
伊東さんが冷ややかにそれを一蹴する。
伊東さんに否定されても、先輩たちは頭を下げ続けていた。
「確かに私は彼女に負けたけれど、部に入るなんて約束までした覚えはなくてよ。それにそんな理由など私には全く関係も、まして興味もありませんわ」




