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とらいあぐる  作者: おきゆむ
高校一年 春
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36/79

三本勝負①

「おいおいギャラリー多くないか?」


事情を知った原田が体育館の入り口を見ながら言う。


体育館の入り口には他の部の者や帰らずに私と伊東さんの試合を見てから帰ろうとする生徒たちの姿があった。


「…噂が広まったんだろ。それか誰かが広めたか…」


コウが呆れ口調に言う。


ギャラリーの奥の方に永倉先生の興味深々な表情が見えた。


…間違えなくあの人の仕業だろう。


「ギャラリーが多い方が盛り上がるだろ?」


と言う永倉先生が想像出来て、思わず苦笑いを浮かべた。


「大丈夫か?」


大が私と同じくギャラリーに視線を向けながら問いかける。


「うん。まあ、少し大袈裟になっちゃったけど大丈夫」


「後のことは気にせず、思いっきりやって来い。ちえなら負けるはずねぇよ」


大のエールに「うん、ありがと」と頷く。


…そうだ、何も考えず試合を楽しもう。


それでこそ私らしい。


ぐっと気合いが入ったところで、体育館の入り口にいるギャラリーが騒ぎ出す。


そして、そこにいたギャラリーの群れが左右に割れて伊東さんが現れる。


既に白色の剣道着と赤色の防具に身をまとい、左腕で面を抱えて、右手には竹刀が握られていた。


伊東さんの後ろに黒いスーツ姿にサングラスをかけた男性が立っている。


伊東さんのボディーガードかもしくは執事だろうか?


昼休みに伊東さんが電話をしていたのを思い出す。


伊東さんがこっちを見て、ゆっくりと私の方へと向かって歩いてきた。


私は固唾かたずを飲んで彼女を待ち受ける。


ドキドキとワクワクが私の中で交差していく。


「お待たせしましたわね。さて、早速始めましょうか?」


伊東さんが前まで来ると、上品な笑みを浮かべてそう言った。


その言葉にしっかりと頷き了承する。


「ところで、審判はどなたがなさるのかしら?」


伊東さんが辺りを見回す。


「俺がしよう」


少し離れたところから力強く返事が聞こえてくる。


山崎先輩だ。


「あら、ここの主将さんが審判を?贔屓ひいきなしのジャッジが出来るかしら?」


伊東さんが山崎先輩に対して不敵な笑みを浮かべる。


「失礼だぞ。この勝負が何だろうが俺は公平に判定する。心配なら連れ人にでも副審を頼むんだな」


山崎先輩が毅然きぜんな態度で応える。


「分かりましたわ主審はあなたにお願いしますわ。私としたことが少し失礼な言い方でしたわね。副審にはうちの執事をつけますわ」


伊東さんが軽く山崎先輩に頭を下げる。


その姿にただのお嬢様じゃないんだなと、彼女に対するイメージが少し変わった。


「もう一人の副審は俺がやろう。…事の発端は俺だ。いいかな伊東さん?」


コウが伊東さんに歩み寄って訊ねる。


「…構いませんわ。あなたなら不公平なジャッジはしないでしょうし」


流石に好意を抱くコウの申し出にはすんなりと受け入れた。


「それでは両者準備を行い、立礼の位置で待て」


山崎先輩の指示通り、私はすぐに座って面を装着して、竹刀を持ち立礼の位置に向かう。


「負けんじゃねえぞ」


面越しに大のエールを受けて拳を合わせる。


「大丈夫。必ず勝つ」


そう答えて立礼りつれいの位置に立つ。


既に相手側の立礼の位置には伊東さんの姿があった。


立ち姿で分かる。


彼女が只者でないことが…


でも、それが私の闘争心を奮い起こさせる。


主審を務める山崎先輩が私の間の前に立つ。


その左右にコウと伊東さんの執事が並ぶ。


「試合は三分間の三本勝負。両者異存はないな?」


山崎先輩の言葉に私も伊東さんも頷く。


それを合図に私は提げ刀の姿勢で伊東さんと相互に礼をした。


そして、帯刀して三歩前に進み開始線で竹刀を抜き合わせて互いに蹲踞そんきょする。


「始め!」


蹲踞を終えたあと、山崎先輩が開始の合図を号令する。


その瞬間、私と竹刀と伊東さんの竹刀とが軽く当たり合う。


そのまま、つば迫り合いにはならずに互いに竹刀をピタリと止めたまま硬直する。


動かないのではない…動けないのだ。


動いた瞬間にやられる気がする程、彼女の殺気は異彩を放っていた。


勿論、彼女も動けずにいる。


動けば私にやられると彼女は思っている筈だ。


それくらい私も彼女に向けてプレッシャーを与えていた。


数秒間、硬直状態が続く。

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