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とらいあぐる  作者: おきゆむ
高校一年 春
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35/84

簡単に言うなよ

「はあ?伊東さんと剣道部を辞めることを賭けて試合をすることになった!?」


コウが大声を出して驚く。


放課後、更衣室の裏手で起こった出来事をコウと大に報告する。


「…ごめん。ついカッとなって…」


コウが大きなため息をつく。


「何を考えてるんだ!簡単にそんな試合を受けてきて馬鹿にも程があるぞ!!」


コウが声を荒げて私に説教をする。


「ごめんなさい…」


私も軽率だったと反省している。


「まあ、いいじゃねぇか。ちえならどんな相手でも勝てるだろ。相手は剣道部員でもないし、まして同性だぜ?楽勝だろ」


大は更衣室の壁にもたれて腕を組んでいる。


「…阿呆。彼女は普通の女子なんかじゃない。財閥の令嬢であってもその立場に満足せずに、何でも自分の力でこなしてしまう天才だ。様々なスポーツで名誉ある賞を獲得してきている。下手したらそこらの男子部員よりはるかに強いと思うぞ…」


コウが大の言葉を否定しきる。


「何でそんな令嬢がこんな学校にいるんだよ…」


大が思わず呟いた。


「…とにかく、そんな馬鹿げた試合はするな。伊東さんには俺から試合を止めるよう頼んでみる」


「…嫌だ」


私の呟きにコウの表情が強張る。


「…は?」


「嫌だ。私は伊東さんと試合がしたい」


俯きながらそう答える。


「お前なあ…」


コウが額に頭を当ててため息を漏らした。


「…馬鹿なことだというのは分かっている。でも、やってみたいの。意地になっている訳じゃない。純粋に彼女と剣道がしたいの」


顔を上げて、コウの目に訴えかける。


「…まったく。万が一負けたらどうするんだ?」


コウが複雑な表情を浮かべた。


「負けない。やるからには絶対に負けないから」


更にコウの目を見て訴えかける。


「ちえは負けない。コウだってそう思っているんだろ?」


大が私の横に並んでコウに言った。


「…ああ、勿論だ。しかし、もしもってことがあるだろ?」


コウがやや苛立ちを込めて言った。


「その時はその時だ。そうなってから考えりゃいい。もしも、辞めるしかない時は俺も一緒に辞める。そして、違う学校でやり直すさ」


大が私の頭の上にポンっと手を置いて話す。


「…簡単に言うなよ」


コウがぼそっと呟いた。


「まあ、いい。とにかく相手は強い。それを忘れないで全力でやるんだぞ?」


「…コウ。ありがとう」


ようやく納得してくれたコウに礼を言う。


「さあ、いざ決戦の舞台へと参りましょうか?」


大が勢いよく手を叩き、気合いを入れる。


「うん!」


…不安はある。


でも、それ以上に私はワクワクしていたんだ。


彼女はきっと只者ではない。


だからこそ私の中の闘争心が駆り立てられるんだ。


関東大会の個人戦に出場出来ない鬱憤うっぷんをここで晴らしてやろう。


そう思うと自然と気合いがみるみると溢れてきた。

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