簡単に言うなよ
「はあ?伊東さんと剣道部を辞めることを賭けて試合をすることになった!?」
コウが大声を出して驚く。
放課後、更衣室の裏手で起こった出来事をコウと大に報告する。
「…ごめん。ついカッとなって…」
コウが大きなため息をつく。
「何を考えてるんだ!簡単にそんな試合を受けてきて馬鹿にも程があるぞ!!」
コウが声を荒げて私に説教をする。
「ごめんなさい…」
私も軽率だったと反省している。
「まあ、いいじゃねぇか。ちえならどんな相手でも勝てるだろ。相手は剣道部員でもないし、まして同性だぜ?楽勝だろ」
大は更衣室の壁にもたれて腕を組んでいる。
「…阿呆。彼女は普通の女子なんかじゃない。財閥の令嬢であってもその立場に満足せずに、何でも自分の力でこなしてしまう天才だ。様々なスポーツで名誉ある賞を獲得してきている。下手したらそこらの男子部員よりはるかに強いと思うぞ…」
コウが大の言葉を否定しきる。
「何でそんな令嬢がこんな学校にいるんだよ…」
大が思わず呟いた。
「…とにかく、そんな馬鹿げた試合はするな。伊東さんには俺から試合を止めるよう頼んでみる」
「…嫌だ」
私の呟きにコウの表情が強張る。
「…は?」
「嫌だ。私は伊東さんと試合がしたい」
俯きながらそう答える。
「お前なあ…」
コウが額に頭を当ててため息を漏らした。
「…馬鹿なことだというのは分かっている。でも、やってみたいの。意地になっている訳じゃない。純粋に彼女と剣道がしたいの」
顔を上げて、コウの目に訴えかける。
「…まったく。万が一負けたらどうするんだ?」
コウが複雑な表情を浮かべた。
「負けない。やるからには絶対に負けないから」
更にコウの目を見て訴えかける。
「ちえは負けない。コウだってそう思っているんだろ?」
大が私の横に並んでコウに言った。
「…ああ、勿論だ。しかし、もしもってことがあるだろ?」
コウがやや苛立ちを込めて言った。
「その時はその時だ。そうなってから考えりゃいい。もしも、辞めるしかない時は俺も一緒に辞める。そして、違う学校でやり直すさ」
大が私の頭の上にポンっと手を置いて話す。
「…簡単に言うなよ」
コウがぼそっと呟いた。
「まあ、いい。とにかく相手は強い。それを忘れないで全力でやるんだぞ?」
「…コウ。ありがとう」
ようやく納得してくれたコウに礼を言う。
「さあ、いざ決戦の舞台へと参りましょうか?」
大が勢いよく手を叩き、気合いを入れる。
「うん!」
…不安はある。
でも、それ以上に私はワクワクしていたんだ。
彼女はきっと只者ではない。
だからこそ私の中の闘争心が駆り立てられるんだ。
関東大会の個人戦に出場出来ない鬱憤をここで晴らしてやろう。
そう思うと自然と気合いがみるみると溢れてきた。




