取り消して!①
「嫌ですわ。だって、どう思うかなんて私の自由でしょ?」
伊東さんが腕を組みながら勝気に言った。
「それは自由かもしれないけど、コウが剣道をしているのを蔑むのはやめて!今すぐ取り消して!」
声を荒げて訴える。
「…暑苦しいわね。あんなものに人生の大事な時間を費やしていると、そうなるのかしら?だから嫌いなのよ…」
彼女は呆れた表情でため息をついた。
「あなたに剣道の何が分かるの!やったこともない癖に勝手に決めつけないで!」
彼女にとってはあんなものでも、私にとって一番大切な剣道を侮辱されて黙ってはいられない。
「あなたこそ勝手に決めつけないで欲しいわね」
「えっ?」
彼女の言葉に思わず訊き返した。
「お家の教育上、私は色んなスポーツを経験してきたの。剣道も例外ではありませんわ。その上で私は否定しているのよ」
彼女の言葉には重みがある。
勿論、そう思わせるのは彼女の表情に凄みがあるからだろう。
でも、気圧される訳にはいかない…
「なら剣道の何をそんなに否定するのよ…?」
彼女が腕組みを解いた。
「野蛮なスポーツだからよ。そもそも剣術自体、日本の歴史上において人を殺める手段じゃない。武士道?笑わせるわ…所詮は相手より上だということに慢心したいだけの精神じゃない」
「違う…」
すぐに否定した。
「何が違うの?」
自信たっぷりに伊東さんが聞き返す。
「確かに剣術は昔は人を傷付けるために使われたものだけど、剣道は違う。剣道は礼に始まり礼に終わる。剣道の中には礼儀の精神があるからただの剣の打ち合いにはならないの。相手に対する思いやりと竹刀を交えることで鍛えてもらうという謙虚な姿勢がそこにはある。だから、あなたの言うことは私は違うと思う」
力強く彼女の目を見て語る。
彼女も黙って最後まで真剣な表情で耳を傾けていた。
「それは剣道をやる人間がそれを重んじていればの話でしょ?…まあ、少なくともあなたはそうかもしれないわね」
伊東さんが目を閉じてクスッと笑う。
「でも、私の考えは変わらないし、言ったことは取り消さないわ。それに私は土方くんが心から剣道をしたいからしている訳ではないと思いますわよ?」




