伊東瑛里華②
伊東さんは頭を上げると私の横を通り過ぎて、女子生徒たちの方へと歩いて行った。
「情けないわ…土方くんに振り向いて貰えないからと言って彼女に当たるのは間違えだとは思わなくて?こんなことが知れたら土方くんはあなたたちを許しはしないでしょうね」
伊東さんの言葉に女子生徒たちの表情が見る見るうちに青ざめていく。
「…ごめんなさい」
女子生徒の一人が力なく答えた。
「私に謝られても困りますわ…」
伊東さんが追い討ちをかける。
すると女子生徒たちは次々と私の前に来て、一言謝ってから、小走りで立ち去って行く。
「ありがとう。助かった」
彼女たちから解放されて安堵した私は伊東さんに向かってお礼を言った。
「…あなたにお礼を言われることはしてませんわ。大体、あなたの行動が彼女たちに誤解を招いたのよ。例え、彼女たちの一方的な妬みだとしても、こうなったのはあなたの自業自得だと私は思いますわ」
伊東さんが呆れたような口調で私に言った。
その言葉に一瞬、ムッとなる。
「あら?腹がお立ちになったのなら、それは自分でも認めているということね」
伊東さんが上品に笑う。
…大体、何でこの学校にこんなお嬢様がいるのよ?
仏頂面で彼女を見る。
「…あなたは何なのよ?あなたもコウ…土方くんのことが好きなの?」
「ええ、そうよ」
即答だった。
その言葉に迷いも恥じらいもない程に…
「彼は他の生徒とはまるで違う。知的であって、いつも冷静に物事を考えているわ。…私に相応しい殿方は彼しか考えられないですもの」
伊東さんが正直に想いを語るのに驚く。
この人はなんて自分に素直なのだろう…
「…ただ一点だけ、私には理解出来ないところがありますけどね」
「一点?」
彼女の言葉に思わず質問を投げかけた。
「ええ。剣道をしているということの一点だけが私にはどうしても理解出来ないの」
伊東さんが首を横に振った。
…何それ?
私の中で怒りが湧く。
「あんなにも優れている彼があんなものに熱を入れているなんて、私には理解のしようがないですもの」
…あんなもの?
「…取り消して」
私は思わず呟いた。
「えっ、何かおっしゃって?」
伊東さんが不敵な笑みを浮かべる。
「剣道をあんなもの呼ばわりしたことを取り消して!」
私にとって何よりも大切な剣道を馬鹿にされたことで私の怒りは頂点に達した。




