幼馴染②
すると、家の塀に背もたれていた人影が私に気付いて動き出す。
「おはよう」
幼馴染みの一人の土方 浩志だ。
私達の間ではコウと呼んでいる。
コウの背中には私と同様に竹刀袋が下がっている。
「おはよう。待った?」
私より背が高いコウをやや見上げるように訊いた。
コウは眼鏡を直しながら「いや、今日は待ってない」と答える。
「今日は」という部分が強調されているのに、思わず顔を引きつらせた。
「…まあ、ちえを待たずに済んだところで、あいつを待つことには変わらないから気にしなくていい」
と言いながらコウは歩き出す。
コウが言う「あいつ」のところへと向かって…
コウの言葉に複雑な仏頂面を浮かべて、すっかり大きくなりやがった背中のあとについていく。
小学生の時は私の方がコウよりも背が高かった。
でも、中学生になった頃からみるみるうちにコウの背が伸びて、気付けば見上げるようになっていた。
コウの背中を見ていると、私の中で男と女の違いをまざまざと見せつけられているようで、少し悔しくなる。
私の家から数分歩いたところに団地があり、その団地の一室に私のもう一人の幼馴染みが住んでいる。
その部屋の前まで来ると、コウがチャイムを鳴らす。
するとドアが開き、中から一人の女性が顔を出した。
「おはようございます」
その瞬間、私とコウはその女性に挨拶をする。
「おはよう。…ごめんね、今日もまだ大毅のやつ起きなくて…」
その女性は申し訳なさそうに言った。
近藤 大毅。
私のもう一人の幼馴染み。
私達の間では大と呼んでいる。
この人は大の母親の幸子さんだ。
若くして大を産んでいるので、高校生の母親にしては随分と年齢は若い。
「ちえ」
横でコウが私に指示を出す。
私はすぐに幸子さんの顔を窺った。
「いつも悪いわね。ちえちゃんお願い」
幸子さんが手を合わせて私に頼んだのを合図に私は中へと入っていく。
奥の部屋へ行くと、敷布団の上で気持ち良さそうに腹を出して眠っている大の姿が目に飛び込んできた。
そして、私は大の頭の横にしゃがむ。
「面ー!!」
私はそう叫びながら、大の頭上にチョップを落とす。
大が声にならない悲鳴をあげて飛び起きた。
「おはよう」
笑顔で大に言った。
大は頭を押さえながら、状況を把握しようと周りを見渡し、気付いたところで私を見た。
「…おはよう。いつも、ご苦労様です」
大は頭を掻きながら、寝呆け顏でそう言った。
「急げ、大。このままだと遅刻だ」
コウが部屋の入り口に立ちながら冷静に言う。
大は慌てて着替えようと起き上がる。
そして、服を脱ごうとしたところで、急に私の方を見やった。
「…着替えるから、部屋の外に出ててくれよ」
大の言葉に怪訝な表情を浮かべて、私は立ち上がり部屋の外へと出る。
「何よ、今更…」
そうぼやきながら部屋の外でコウを待つ。
私は幼い頃から大とコウと裸なんて見飽きる程に見てきた。
流石にお風呂は小学生の低学年までしか一緒には入らなかったが、着替えくらいは中学生になっても気にしなかった仲だ。
それが最近になって、大は嫌がるようになった。
女の私が嫌がるなら分かるけど、男のアンタが嫌がってどうするのよ…




