斎藤恵
「何?何を騒いでるの?」
関東大会予選敗退の翌日の放課後、いつものように更衣室に向かうと、その前に通る体育館が何やら騒がしく感じて体育館を覗く。
すると、その騒ぎの中心に大の姿が見えた。
大が関係しているのだろうか…?
と首を傾げる。
「なんか近藤が連れて来ていた女子がマネージャーとして入部するらしいぜ」
既に体操服に着替え終えて体育館にいた原田が体育館の入り口に立つ私のところまで来て教えてくれた。
原田の言葉にもう一度、大の方を見る。
するとその横に見たことがある人物が立っていた。
以前、大が「斎藤」と読んでいた大のクラスメイトだ。
その子を山崎先輩に紹介している様子だった。
すると、大が私に気がついたみたいで、軽く部長に頭を下げて小走りで近付いて来た。
「…あの娘は剣道部にマネージャーとして入ることになった俺のクラスの女子の斎藤さん。運動するのが苦手だけど何か運動部に入りたいって言ってたから剣道部のマネージャーに誘ってみたんだ」
大が頭をぽりぽりと掻きながら、私に事情を説明する。
…別にまだ何も訊いてないよ。
心中で突っ込むも、それを隠してそうなんだぁという表情を浮かべる。
「…斎藤 恵です。沖田ちえさんですよね?近藤くんから色々と話は聞いてます。務まるかは分からないけれど今日からマネージャーとして一生懸命頑張るのでよろしくお願いします」
気付くと大の後ろに斎藤さんが立っていて、私に笑顔で挨拶をした。
…色々って何だ?
という疑問を押し殺し、私も笑顔を浮かべる。
「こちらこそよろしく。同じ一年なんだから敬語は止めようよ?仲良くしようね」
と右手を差し伸べた。
彼女も手を差し出して握手を交わす。
「うん。よろしくね沖田さん」
一見かなり大人しそうに見えるけれど、しっかりと話すんだなと少し抱いていたイメージと違っていた。
「俺は原田。俺も一年だ。よろしくな」
横にいた原田が一歩前に出て私と同じように握手を求めた。
「お前はいいんだよ」
原田の手に斎藤さんが手を伸ばした瞬間、大が原田の手を弾く。
「…痛えな!握手くらいいいだろがっ」
原田が大に食って掛かる。
「大事な同じクラスの女子に不良みたいなやつを触らせる訳にはいかねえよ」
大が斎藤さんの前に入って原田に顔を近づける。
「何だと!」
「もう!やめなさいってばっ!斎藤さんの前で喧嘩みたいなことしないで!斎藤さんがびっくりするじゃないっ!」
今にも殴り合いそうな二人を引き離して叫んだ。
「…お前が一番彼女をびっくりさせてるぞ」
声の方に視線を向けると剣道着姿のコウが体育館の入り口の階段の半ばに立っていた。
コウに言われて斎藤さんを見ると、確かに私に驚いた表情を浮かべている。
思わず頬をぽりぽりと掻いた。
「早くちえも着替えてこい。大と原田はさっさと練習をしろ。部長に怒られるぞ…斎藤さんには俺から色々と剣道部のことを説明しておくから」
コウの言葉に私たちはこくりと頷いた。
大と原田はしぶしぶと練習へと向かい、コウは斎藤さんを連れて体育館の中を話しながら歩いていく。
その姿を見てから、すぐ隣にある更衣室へと軽快に階段を下りて向かった。
大はああいうタイプの女の子が好きなのかな…?
なんてことを考えながら。




