一回戦敗退②
そんなタラレバを想像するも、どうにもならない現実を受け止める。
…私は女だ。
それなりに出来ることをやるだけだ。
「…ちえ?どうかしたか?帰るぞ?」
コウに話しかけられて、ふと我に帰る。
「…ううん。大丈夫、何でもないよ。あれ?大は?」
気付くと側にはコウしか居らず、大の姿もなくなっていた。
「…ああ、何でも応援に来てくれていたクラスメイトがいたらしく、お礼を言ってくるみたいだ」
その言葉に前に大が話しかけていた女子の顔が浮かんだ。
「…そっか。じゃあ、ここで待ってよ。あれ?原田や谷くんももう帰ったの?」
いつもなら別れ際にしつこく話かけてくるのに、今日はヤケに潔く帰ったんだなと首を傾げた。
「薫ちゃんが効いたんだろう?今日はそそくさと帰って行ったよ」
「…そっ。ならいいんだけどさ」
なんか拍子抜けの感じがして少しモヤモヤとした。
いつもはウザいけれど、無ければ無いで寂しさを感じる。
「なあ、ちえ?」
「ん、何?」
コウが何やら深刻そうな表情を浮かべて訊いてきた。
「…あまり思わせ振りな態度は控えた方がいいと思うぞ」
コウが目を逸らしながら言った。
「ん?どういうこと?」
「…原田にだ。あいつの気持ちに応える気がないのなら、もうちょっと突き放した方がいいんじゃないかってことだ。…ちえの接し方を見ていると満更でもないように捉えられてしまい兼ねないぞ」
コウの言葉に以前、山南さんに私の男子に対する接し方がクラスメイトの男子を勘違いさせると言われたことを思い出した。
…でも、原田はいいやつだ。
確かにアイツの好きには応えるつもりは毛頭ないけれど、だからといって邪険には扱えるほど、私の性格は器用に出来てはいない。
「…コウの忠告は有り難いけど、多分接し方は変えられないよ。…原田はいいやつだし、冷たくあしらうことは出来ない」
私もコウの顔を見ずに言った。
「…そうだな。まあ、その方がちえらしいな…ごめん、忘れてくれ。ちえはちえのままでいいよ…」
コウがそう言って、私の頭をポンっと叩いた。
それに私はコウの顔を見て、笑顔で応える。
「悪いっ、待たせたな!…ん、どうかした?」
コウが走ってきて、私とコウの様子に気付いて訊ねる。
「…なんでもない。さあ、帰るぞ」
コウが先に歩き出す。
大が私の方を見て首を傾げて、一緒にコウの後についで帰路を歩き出した。
「…まあ、あれだ…今回は残念だったな」
コウに追いつき、三人が並んだタイミングで大が切り出した。
それは今日の団体戦のことを言っているのか、個人戦に出られなくなったことを言っているのか、はたまたその両方か…?
アンタの言う残念だったは、一体どの残念だったなのよ…?
と心中で毒づく。
…まあ、大なりに私を励まそうとしているのは分かっている。
「仕方ないよ。勝負だもん。…でも、悔しい」
悔しいと言ってしまった時、心の底に沈めて誤魔化していたものが急浮上する。
気付いた時には目から涙がポツリと落ちていた。
「…別に個人戦に出れなくなったことが悔しいんじゃないよ。皆んなで戦って負けたことが純粋に悔しいの…」
あんなに一生懸命に練習をしていた先輩たちを勝たせてあげられなかった自分の不甲斐なさが堪らなく悔しかった。
「分かっている。…泣きたいときは無理しなくていい」
コウが優しく私の肩をポンポンと叩く。
「ったく…先輩たちが泣いている時は我慢してたのかよ。相変わらずちえらしいな」
大がそう言って私の頭を優しく撫でた。
こうして大とコウに挟まれて泣いていると、お母さんが亡くなった時を思い出す。
あの時もこうして泣く私を二人が慰めてくれた。
今の私もあの頃のように、二人の幼馴染に挟まれながら涙する。
やっぱり私にとって二人は特別な存在だ。
でも、いつまでもそれに甘える訳にはいかないことを最近は少しずつ感じてきている。
私たちはもう大人になりつつあるんだ。
もう、あの頃ように無邪気なままの三人ではいられない。
…それでも、私はもう少しこのままでいたいんだ。
どうせいつか終わりが来るなら少しでも長く…
悔しさが和らいで涙が止まっても、私は泣くことを止めなかった。
大とコウにもう少し甘えていたくなったから…
静かな夜道には私たちの足音と私の鼻をすする音だけが聞こえていた。




