一回戦敗退①
関東大会予選当日はあっという間に時間が過ぎていった。
そして、熱戦が繰り広げられた武道館を後にする時、ふと目頭が熱くなるのをぐっと堪えた。
今、涙を流してしまうと先輩達に気を遣わせてしまう…
新撰高校女子剣道部は一回戦で敗退した。
まず先鋒の私が勝ち、続いて次鋒の二年生の先輩が勝ち連勝するも、その後三連敗を喫してしまう。
大将を務めた相馬先輩は敗戦直後にすぐに泣いて個人戦に出られなくなってごめんと私に謝ってきた。
…私が悲しいのは決して個人戦に出れなくなったからではない。
みんなで挑んだ試合に負けたことが純粋に悔しかったんだ…
男子剣道部は大とコウの活躍もあり、見事関東大会本戦に勝ち進んだ。
そのことが私の中で救いとなった。
大とコウなら本戦で優勝も可能だろう。
剣道部全員で学校に戻るため駅へと歩いて行く道中も相馬先輩の涙は止まらなかった。
私は何も言わずに横を歩く。
「まあ、すぐインターハイがあるんだから気にすんなよ」
いつの間にか隣に現れた原田が馴れ馴れしく私の肩を叩きながら言った。
すると、その手を強引に押しのけてコウが間に入ってきた。
「まだまだ下手くそなお前に他人を慰める資格はない」
コウが眼鏡を人差し指で直しながら、冷ややかに言い放つ。
「…なっ!俺は気を遣ってだなっ!」
原田がすぐに反論する。
「コウに言い合いで楯突いても勝てねぇぞ薫ちゃん」
私の背後から大の声が聞こえる。
「薫ちゃん…?」
私は首を傾げた。
「…や、やめろ!名前で呼ぶな名前で!」
原田の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「えっ?何?アンタの名前薫なの!?どう見たって薫って顔じゃないじゃないっ!」
あまりの可笑しさに堪え切れず大笑いする。
「う、うるせぇ!親が女の子が欲しかったから男でも女でもいい名前にしやがったんだよ!」
「両親も可哀想にこんなにも名前にそぐわない人相になるとは夢にも思わなかったでしょうね」
お腹を抱えながら原田を…薫ちゃんを苛める。
「余計なお世話だ!俺だってもっと漢らしい名前が良かったよ!」
「…まあ、名前なんて気にしなくていいんじゃないか?なっ、薫ちゃん」
大が原田の肩をポンっと叩く。
大の薫ちゃんに堪えようとしてた笑いが再発する。
「…駄目だ面白すぎる!」
「おい!笑い過ぎだろっ!」
原田が顔真っ赤にして抗議する。
ふと隣を見ると、さっきまで涙していた相馬先輩がクスクスと笑っていた。
「…ご、ごめんなさい。笑うつもりは…」
そう言って笑う相馬先輩を見て自然と笑みが溢れた。
私はコウの前を横切って、原田の隣に並んで右肘で突っつく。
「…場を和ませてくれて、ありがとね」
私は原田に聞こえるくらいのトーンで囁いた。
「…別に何もしてねえし、そんなので礼を言われても嬉しくねぇ」
と仏頂面で原田が答える。
そのあとも薫ちゃんネタで私達新撰高校剣道部は盛り上がった。
まるで、女子の敗戦を笑い飛ばすように…
そして、電車に乗って学校へと戻ってきた。
既に日が傾きかけていて、辺りが薄暗くなっている。
各々が防具を置いてから体育館前に集まると、山崎部長が皆に向かって話を始めた。
「今日は試合に出た者もそうでない者もご苦労だった」
山崎部長が労いの言葉を口にした。
新撰高校剣道部は現在指導者が不在であり、一応顧問はいるものの剣道に対して素人のため、こういう仕切りは山崎部長が行なっている。
「…まあ、女子は残念な結果にはなってしまったが、すぐにインターハイの予選が始まる。今日の敗戦を活かして次は頑張って欲しい」
山崎部長が少しだけ優しい表情を見せるも、すぐに厳しい表情へと変化させた。
「男子は本戦に進めることにはなったが、くれぐれも気を抜かないようにな。我々新撰高校はあくまで本戦に進むことが目標ではない。本戦で一つでも多く勝ち抜くことが目標だ。あと、メンバーも本戦では変える可能性があるということをくれぐれも忘れるなよ!」
山崎部長が厳しい表情で叱咤激励をする。
「はい!」
男子部員が大きな声でそれに応えた。
「よし、解散!」
山崎部長もまた、大きな声で応える。
その様を見て、やはり男はいいなと羨む。
私が男だったらメンバーに選ばれていただろうか?
そうすれば大とコウと一緒に本戦進出に貢献出来ただろうか?




