達兄②
「同級生から告白されたんだよな?」
和兄の発言に爺ちゃんが思いっきり吹き出して、和兄にご飯粒が飛んでいく。
「わぁ!?爺ちゃん汚いってー!」
「…ば、ばかもん!お前が変な事を突然言うからじゃー!!」
「な、何でその事を知ってるのよー!?」
和兄と爺ちゃんの声を掻き消すように和兄に向かって叫ぶ。
「…まあ、世間は狭いってことよ」
和兄がティッシュで顔を拭きながら答える。
「あらま、明日は赤飯だね」
婆ちゃんが嬉しいそうな声をあげる。
「本当なのか、ちえ?」
達兄が驚いた面持ちで私に訊ねる。
不本意ながらこくりと頷く。
「…ちえがのう。相手はどっちじゃ?大毅か?浩志か?」
爺ちゃんの質問に私の表情が歪む。
「違うわよ!何で大とコウなのよ!」
卓に両手をドンとついて叫んだ。
「へえ…大とコウじゃないやつにちえが好きだと言われるなんてなあ」
達兄がしみじみと頷く。
「もう!その話はどうでもいいの!断ったからもう関係ないんだから!」
「断ったのか?勿体ないのう。こんなチャンスないかもしれんぞ?」
爺ちゃんが不満そうにぼやく。
「今の私には剣道だけで充分!好きだの恋だの私には不必要ですからっ!」
「まあ、相手はまだ諦めてないらしく、お前を追いかけて剣道部に入部してきたんだよな?」
和兄が話しながらニヤニヤとした表情を浮かべる。
「な、何で!?もう!何なのよ!」
次から次へと和兄に暴露されて、頭にきて立ち上がり、和兄の頭に思いっきりチョップを落とす。
「いってぇー!何すんだよ!」
和兄が頭を押さえながら立ち上がる。
「和兄がベラベラと話すからでしょ!」
「本当のことを言って何が悪いっ!家族に…まして久々に帰って来た達兄に内緒にしてる方がよっぽど悪いと思うぞ!」
「…ぐっ」
和兄の正論に思わず何も言い返せなくなる。
「ふん。和兄様の情報網をなめるなよ」
和兄の勝ち誇った顔に腹が煮え繰り返りそうになった。
「こらっ!和哉もちえも座りなさい!」
婆ちゃんの怒声にはいと返事をして、和兄も私も座った。
…しかし、コイツはどこからそんな情報を得てくるんだ?
大かコウか?
…いや、今日の二人の様子からは有り得ない。
だとすれば誰が和兄に…?
「まあ、今すぐに恋だの言わなくてもいいけれど、ちえは女の子なんだから、ちゃんと恋をして欲しいけれどな…」
達兄が薄っすらと笑みを浮かべて言った。
…女の子なんだからというフレーズに思わずムッとなる。
「…達兄。こいつにそんなことを言っても無理だって。女の子とかいう以前に人間じゃねって、猛獣だよ猛獣」
私は再度立ち上がり、和兄の頭にチョップを落とした。
「…ってぇなぁ!」
和兄も再度、頭を押さえながら立ち上がる。
「こらっ!!」
婆ちゃんが再度、私たちを叱りつけた。
私は渋々と仏頂面を浮かべながら座る。
その後も、食卓の話題はそれ一色だった。
◯
翌朝、起きた時には達兄の姿はなかった。
「関東大会頑張れよ。北海道から応援してるからな」
昨日、寝る前に達兄が私にそう言ったのを思い出す。
それを仏前に座り、母に報告する。
顔を洗い鏡を見て、とにかく今は大会に集中だと自分の顔に言い聞かせる。
二回両手で頬を叩き、気合いを入れてから学校に行く支度をした。
この日から日曜日まで雑念を捨て、集中して練習に打ち込んだ。
…そして、関東大会予選が行われる日曜日がやってきた。




