達兄①
部活が終わって、いつものように大とコウと帰って行く。
家に辿り着いて、大とコウに手を振り別れる。
…なんだか今日はとても疲れた。
玄関のドアノブに手をかけた時に大きなため息が漏れた。
すると、私が開ける前にドア開く。
「おかえり、ちえ」
「達兄っ!」
突然、目の前に達兄が現れたので、驚きと同時に喜びが込み上げてくる。
「いつ帰ってきたの!?」
家の中に入り、荷物を玄関口に置きながら達兄に訊いた。
「さっきだよ。たまたま、近くに来る用事が出来たから、今日は実家に泊まろうかと帰ってきたんだ」
達兄は喜ぶ私の頭を撫でながら言った。
達兄の職業は海上自衛隊員で函館にある基地に現在は所属している。
なので、年に数回しか会えないため、達兄が帰ってくるのはとても嬉しい。
「大好きな和兄さんもいるぞぉ」
達兄の後ろから和兄が私を揶揄うようにおちゃらけて顔を出す。
そのうざったい頭を手で押しのけて、達兄を居間へと連れて行く。
「あっ、和兄っ!私の鞄を居間に運んでおいてっ!」
「はっ?何で俺が運ばなきゃいけないんだよ!自分で運べっ!」
和兄が文句を言いながらも玄関の私の鞄を拾い上げた。
「ねぇ?達兄はいつまで居れるの?」
居間の机の前に座って達兄に訊いた。
達兄は私の向かい側に腰掛ける。
「…すぐに函館に戻らないといけないんだ。明日の朝にはここを発つよ」
少し申し訳なさげに達兄が答えた。
「そうなの!?前もすぐに帰ったし、全然達兄と一緒に居られない!」
私は机の上に両手をついて嘆いた。
「…仕方ねぇだろ。達兄は忙しいの。お前の子守をしている暇はないんだよ」
いつの間にか私と達兄の横に座っている和兄が机の上に肘をついて手に顎を乗せながら言う。
私は思いっきり頬を膨らませた。
「…ごめんな、ちえ。この埋め合わせは必ずするから…」
達兄が手を合わせて謝る。
「…別に約束を破った訳じゃないんだから謝る必要ねぇよ。こいつをこれ以上、甘やかすなって」
和兄の言葉が頭にきて、机にある顎を乗せてある手を払った。
勢いよく机に和兄の頭が激突する。
「…仕方ないのは分かってる。我儘を言って困らせてごめん」
私はしおらしく謝った。
「…次は何とか頑張って時間を取れるようにしてみるよ」
そう言って、達兄が笑顔をみせた。
「ちえ。晩御飯にするから着替えて来な」
婆ちゃんが台所から居間に顔を出す。
「はーい」
そう返事をして立ち上がる。
「…とその前に」
居間の隅にある仏壇の前に丁寧に座る。
「…達兄が無事に帰ってきたよ」
お母さんの遺影に向かって囁いた。
達兄の仕事は決して安全なものではい。
もしもの事がないとは言えないだけに、私たち家族は直接口には出さないけど、心のどこかで心配している。
きっと、母も心配しているに違いない。
母への挨拶を済ませ、二階にある自分の部屋で制服を着替えて再び居間に戻ってくると、既に食事が用意されていた。
私は慌てて洗面所で手洗いとうがいを済ませ、居間へと戻ってくる。
「さて、食べるとするか?」
爺ちゃんの一言で私と達兄と和兄が箸を動かす。
「…やっぱり家のご飯が一番だな」
達兄がしみじみと言う。
「まだまだあるから遠慮なく言いなさい」
婆ちゃんが台所から残りのおかずを卓に置いて爺ちゃんの横に座りながら達兄に声をかける。
「ありがとう婆ちゃん」
達兄の安心感に溢れた表情を見て、良かったと安堵する。
達兄が海上自衛官になってから、前まで当たり前にこの家にいた筈の達兄がいなくなって、何か毎日のように不安を感じていた。
仕事が仕事だから、いつ危険な目に遭うか分からないのもあるからだろう。
「ちえは日曜日、関東大会だって?」
達兄が私を見て訊いた。
「うん。団体戦」
「調子はどうだ?」
達兄の問いかけに素直に絶好調とは言えずに言葉を詰まらせる。
…最近の私は剣道に集中出来ているとはとても言えない。
「ん?どうした?何か悩み事か?」
私の様子に達兄が心配そうな表情を浮かべた。
「ううん。何でもないよ。順調だから心配しないで」
「おいおい、嘘は良くないなぁ」
達兄を安心させようとした言葉に和兄がチャチャを入れる。
「…嘘って何よ?」
隣で唐揚げを頬張る和兄をジロリと睨む。
和兄が唐揚げを食べ終えると、ニヤリとしながらこっちを見た。
…その表情からは嫌な予感しかしない。




