永倉先生②
「…何で永倉先生がそれを知ってるんですか?」
冷ややかな目線を向けながら訊いた。
「そこの窓からたまたま見えたもんでな」
と永倉先生は窓を一瞥する。
いやいや、そこからじゃ見える訳ないじゃない…!
…やっぱり普段この人、暇なんだなと確信する。
「で?どうするんだ?原田にしておくのか?…いや、近藤か?…土方か?本命は誰なんだ?」
谷くんの足に包帯を巻き終えて、こちらに目線を向けてしつこく質問を投げかけてくる。
私は大きなため息をついた。
「…誰でもないですよ」
ぶっきら棒に答える。
「…何だつまらんなぁ。この前、悩んでたのはそれではなかったのか。…それにしてもお前はモテモテだな?3年の武田にも言い寄られているじゃないか?」
…それも見られていたか。
「…言い寄られてた訳じゃないです!ただ、話しかけられただけですよ!」
「ふぅん。…でも、どうでもいい相手にわざわざ話しかけるか?武田はお前に興味があるから話しかけたんだろ?…はっはーん、さては本命は武田だな!」
永倉先生が私を指差して叫ぶ。
「違います!…谷くん行くよ!」
とっくに谷くんの処置が終えているのを確認して、私は谷くんに手を差し伸べる。
「…大丈夫。自分で歩けるから…」
そう言って、少し顔歪めながらも谷くんが立ち上がる。
「おいおい、もう帰るのか?もう少しゆっくりしていっていいんだぞ?」
もう少し私を弄びたそうに永倉先生が惜しむ。
「練習に戻ります。ありがとうございました!」
少々、苛立ちを込めて礼を言う。
「…せっかく、沖田が怪我させたのを処置してやったのに」
永倉先生がつまらなさそうに言った。
「だからっ、違うって言ってるじゃないですかっ!谷くん行くよ!」
「はい…!」
私がそう言って出口に歩いて行くと、ゆっくりと谷くんが後ろをついてくる。
「ありがとうございました!」
谷くんを廊下に出してから勢いよく教室の扉を閉めた。
「ったく!暇人教師なんだからっ」
廊下に出たところで悪態をつく。
「谷くん大丈夫?本当に歩ける?」
隣に立っている谷くんに訊いた。
谷くんがこくりと頷いた。
「本当に大丈夫だから心配しないでください。それに間違っても沖田さんの肩を借りたら原田くんに怒られるだろうし。…あと、近藤くんと土方くんにも」
谷くんがさっきの永倉先生の話を間に受けて、そんなことを言う。
「…あのさぁ。永倉先生の言ったことを信じないでね。今の私には剣道のことしか頭にないんだからっ!」
少々、怒り気味に言ったので谷くんが申し訳なさそうに頭を下げて謝る。
「…さあ、そんなことはどうでもいいから戻ろう?あっ、ゆっくりでいいからね」
私は苛立ちを堪えて、優しく谷くんに言った。
谷くんのペースに合わせてゆっくりと体育館に戻っていく。
そして、体育館に近づいた時に原田が私が谷くんに肩を貸していないかチェックをしているのを発見して、お尻に蹴りをお見舞いしてやった。




