永倉先生①
「…本当にすみません。僕のせいで大事な時期の練習の時間を割いてしまって…」
ゆっくり廊下を歩きながら、谷くんが謝った。
「…本当だぜ。今の沖田は一分一秒でも勿体無いんだからな。…練習中に足をくじいて歩けなくなるなんて情けねぇ」
谷くんに肩を貸している原田が谷くんに文句を言う。
「原田!」
原田と谷くんの横で歩きながら原田をジロリと睨む。
「…谷くんが気にすることじゃないよ。私が勝手についてきただけだからさ。…て、何でアンタまでついてくんのよっ!」
原田を指差しながら言った。
「うるせぇな!…谷なんかに沖田の肩を貸させてたまるかっての!」
原田の言葉に思わずため息を漏らし、練習を始める前に大に言われたことを思い出す。
…今の私に恋なんてあり得ないってば!
仏頂面を浮かべて心中でぼやく。
保健室に着いて、扉を開けると中にいる永倉先生が椅子に座りながら手を振った。
「いらっしゃい。おや、また怪我人を出したのか沖田?」
永倉先生の問いかけに原田と谷くんが私を見た。
「だから、私が怪我をさせてる訳じゃないって言ってるじゃないですかっ!二人に変な誤解を抱かせないでくださいっ!」
そう言って頬を膨らませる。
「分かった分かった。そういうことにしといてやるから、さっさと入れ」
…全く分かってない!
心中で叫びながら、永倉先生に鋭い目線を向ける。
永倉先生に言われて、原田と谷くんが保健室に入り、それを見てから私も入って扉を閉めた。
「足を痛めたのか?ここに座らせろ」
永倉先生がそう言って、先生の近くにある丸椅子を指差した。
言われた通りに原田が谷くんをそこに座らせる。
「原田はもういいよ。戻って練習して」
そう言うと、原田は納得いかない表情を浮かべた。
「…帰りはどうするんだよ?」
「私が肩を貸すか、大丈夫そうなら自分で歩いてもらうから、アンタはさっさと練習に戻って」
そう答えて、ため息を漏らす。
「…わぁったよ。谷!ちゃんと自分で歩いて帰れよな!沖田に頼るなよ!」
納得してから原田が谷くんに向かって念を押すと、谷くんが大丈夫だよと頷く。
「原田!」
私が吠えると原田がそそくさと保健室を出ていく。
「…ったく」
出口に目線を向けたまま一言文句を漏らす。
「谷くん気にしなくていいから、足が痛かったら遠慮しないでね」
谷くんの方に視線を向けて、笑顔を作る。
「…いえ、大丈夫です。行きもそんなに歩けない訳ではなかったから…本当に迷惑をかけてごめんなさい」
谷くんが申し訳なさそうに話す。
「はいはい、とっとと足を見せる!私はそんなに暇じゃないんだぞっ!」
永倉先生が痺れを切らしたように言う。
谷くんが慌てて足を永倉先生に見せる。
私にはいつも暇そうに映るけど…という言葉が出かけたが寸前のところで飲み込んだ。
「…で、沖田は原田と付き合うのか?」
「えっ!?」
谷くんの足を触りながら、永倉先生が私に突拍子も無いことを訊いてきたので、思わず声を張り上げた。
「告白されたんだろ?どうするんだ?」
永倉先生が谷くんの足を手際よく治療しながら、興味津々に訊いてくる。
谷くんは聞かなかったように黙って処置をしてもらっている足を見つめていた。




