武田先輩は楽しんでいる
ボッーとしている間に放課後がやってくる。
結局、昼休みに大のところにコウのことを相談しに行くことはなかった。
「俺や大だってそりゃ色々あるし、全てをちえに話すことではないだろう?」
先週の金曜の帰りにコウが言ったことを思い出す。
別に大だって男子だし、好きな女の子の一人くらいはいるだろう。
…まあ、単なるクラスメイトかもしれないけど、あの時の大の表情にはそれを否定させるものがあった。
凄く無邪気でいてどこか照れ臭そうな…
あんな表情…私には見せたことがない。
…いいじゃないか。
大も高校生だ。
彼女くらい欲しいだろう。
応援してやらなきゃ…もし、大とあの子が上手く付き合えたなら、祝福してやらなきゃ…
私は笑みを浮かべた。
少々、強引に…
…部活に向かいながら、そんなことばかり考えていた。
「沖田さん?」
不意に声をかけられ、ビクッとしてその声の方へと視線を向ける。
「…武田先輩!?」
その時、自分が校舎を出て、外を歩いていたことに気がつく。
「…ごめんね突然。驚かせたかな?」
武田先輩が頭をポリポリと掻きながら私に問いかけた。
「いえ、少しボッーとしてたので…」
と頭をぶんぶんと横に振った。
「何かあったのかい?心ここに在らずといった感じだったけど?」
武田先輩に言われて、反射的に朝のことを思い浮かべてしまい恥ずかしさが込み上げてきた。
「…大丈夫です。何でもありません」
あんなことくらいで心を乱すなんて、ほんと何をやっているんだと反省する。
「何かあったらいつでも相談に乗るよ」
そう言って武田先輩がクスッと笑う。
まるで全てを見透かされているようで、思わず武田先輩から目を逸らす。
「…もしかして原田くんに告白されたことを悩んでいるのかな?」
突然の武田先輩の言葉に慌てて逸らしていた視線を戻す。
「えっ!?」
何で武田先輩がそれを知っているのよ!?
「あれ?悩みはそれではなかったようだね。沖田さんは悩み事が多いんだね。アオハル感満載で羨ましいよ」
とますます武田先輩がクスクスと笑い出す。
「…武田先輩は何でも知ってるんですね?」
私はやや仏頂面で武田先輩に問いかけた。
「何でもって訳ではないよ。ただ君のことには興味があるだけさ」
武田先輩はそんな甘い言葉を恥ずかしげもなく私の目を見てさらりと言ってのけた。
思わず、こっちが恥ずかしくなる。
「…た、他言はしないで下さいね!」
「勿論」
武田先輩はなんとも憎めない笑みを浮かべて答えた。
「あっ、でも君の幼馴染の二人はそのことを知っているよ。なにせ一緒に一部始終を見ていたからね」
「なっ!?」
私は思わず声を張り上げた。
武田先輩の爽やかな表情とは正反対の表情を私は浮かべていただろう。
「きっと君が原田くんに呼び出されて心配になってあとをつけていたんだと思うよ。幼馴染思いじゃないか」
武田先輩が嬉しそうに語る。
…武田先輩、何か楽しんでない?
「…武田先輩はどうしてあの場にいたんですか?」
少し武田先輩を睨むように質問する。
「たまたま君と原田くんが歩いていくのが見えてね。するとあとから、あの二人がついてきているじゃないか。これはきっと楽しいことが起こると予感したんだ」
…やっぱり武田先輩は楽しんでいる。
しかし、今はそんな武田先輩に怒りを抱くよりも、もっと腹が立つべき奴らがいた。
「…先輩。私、少し急用が出来たんで失礼します」
少々、失礼かと思いつつも、込み上げてくる怒りが抑えられず、先輩を置いて早足でその場をあとにした。
「くれぐれもお手柔らかにしてあげてね」
武田先輩の言葉を背中に受けて、私は剣道部が練習をする体育館へと急いだ。




