気になる呟き
月曜日の朝、いつも通りにコウが私の家に迎えに来てくれた。
何も普段と変わらない挨拶を交わし、一緒に大を起こしに行く。
その道中、昨日の帰りに不意に聞こえた呟きの真意を訊こうとしたが、声にする手前で止めた。
…せっかく大と仲直りしたのに、三人の仲をまた拗らせるようなことをしなくてもいいかと、思い止まったのだ。
それに私の気のせいかもしれない…
そうだ…そうに決まっている。
コウが私達の喧嘩を望む訳がないのだから…
…きっと聞き間違えだ。
私は懸命に平然を装いながら、コウとの会話に集中する。
話題は関東大会予選のことだ。
女子と違って男子は団体のレギュラー争いが熾烈で普通なら一年でレギュラーを勝ち取るのは難しい。
だけど、普通とは違う大とコウはまず選ばられるだろう。
それは二人の実力を知る私が保証する。
「とりあえず女子は一回戦突破か。一回戦は勝ってもらわないとちえが個人戦に出れなくなるしな」
「…一回戦を突破したら確かに一人は出れるけれど、それが私とは限らないよ。私は一年だし、先輩たちの誰かが出た方がいいと思う」
「おいおい、優勝候補が大会に出ないでどうする?それに先輩達とちえじゃ実力差は明らかだし、例え二回戦で負けて一人しか出れなくなっても、先輩達はお前に譲る筈だ」
コウが珍しくむきになる。
「でも、先輩たちも一生懸命に頑張っているし…」
私の言葉がコウに深いため息を吐かせた。
「…ちえは優し過ぎる。それがちえのいいところだということは知っているけど、もう少し欲を持った方がいいんじゃないか?」
コウが真剣な面持ちで語る。
「…俺なら多少周りを傷つけたとしても欲しいものを手に入れる」
一瞬、コウの目に怖さを覚えた。
「…いや、少しむきになり過ぎた。ごめん」
すぐにコウがそう言って謝った。
私は首を振って応える。
そのあと、なんとなく気まずくなり、大の団地に着くまで無言が続いた。
大の号室まで行きインターホンを鳴らすと、幸子さんが顔を出す。
「おはよう。コウくん今日もよろしくね」
仲直りしたことを知らない幸子さんは今日も私は外で待つのだと思いコウに向かって言った。
「私が起こしに行きます」
「あらっ?良かったわ。仲直り出来たのね」
仲直り出来たという言葉にふと昨日のコウの言葉が蘇る。
「…どうかしたか?」
私の様子を見てコウが心配そうに訊いた。
「大丈夫。何でもないよ」
気にしないようにと言い聞かせても、やっぱり気になってしまう。
私はそれを吹き飛ばすように大の部屋まで急いで行き、大が寝ている敷布団を捲り上げた。
「うぎゃ…」
大が横のタンスに頭をぶつけて変な声を出す。
「おはよう」
私が上から右手を小さく上げたポーズで大に挨拶をした。
「…おはよう」
大が頭を押さえながら起き上がった。
大の着替えが終わると、私たちは急いで学校へと向かうため団地を後にする。
「行ってらっしゃい」
団地を出たところで、幸子さんの声が聞こえて振り返って手を振る。
なんだかいつもよりも嬉しそうな声に聞こえたのは気のせいだろうか?
学校に近づくに連れて、いつものようにコウの周りに女子が群がってくる。
そのタイミングで私と大は後ろへと下がらなければならない。
彼女達はきっと特定の場所で待機していて、コウが来ると同時に現れるのだろう。
仮に私たちが遅刻する時でも待っていそうで怖い。
大と私は昨夜のテレビ番組の話で盛り上がった。
その会話の途中でチラッと前方のコウを見ると、いつもは愛想よく女子と話しているのに、今日はなんだかそうではない。
大の次はコウの様子が少し変だ。
…違う、厳密には大と同じ時期からかもしれないと金曜日の練習を思い出す。
学校へ着いても私は大と並んで、コウの取り巻きの後ろを歩き教室へと向かった。
そして、1-A教室の前で大と群れの中にいるコウに手を振り別れる。
その時、大の後ろ姿を見ながら、昼休みにコウのことを相談してみようと一人頷いた。




