仲直り
次の日の日曜日もコウが私を迎えに来て、二人で大の団地へ向かう。
いつもなら私が大を起こすけれど、ここ2日はコウが起こしに行き、私は外で待つ。
「…大と何かあった?」
幸子さんが外に出てきて私に訊く。
「…いえ、別に何も」
「…そう。それならいいんだけど、いつもの大とちえちゃんの喧嘩にしては何か違うのよね…」
幸子さんが首を傾げながら言う。
「お待たせ」
コウがドアを開けて出てきた。
その後ろから大も出てくるが挨拶は互いに交わさない。
「…まったく。まあ、くれぐれも来週の試合には響かせない程度にね」
幸子さんが呆れた表情で私と大を見て言った。
◯
「…何かあったの?」
練習の休憩時に相馬先輩が私の横に座ってそう訊いてきた。
「えっ?」
相馬先輩に言われてドキッとする。
原田に告白され、大と何か分からないうちに喧嘩状態…
思い当たる何かがあり過ぎて答えられない。
「近藤くんと何かぎくしゃくしているように見えるけど」
…そっちか。
相馬先輩に心配されるくらいそれが私の態度に出ていたのだろうか…?
「…すみません。大会前に…」
相馬先輩に頭を下げた。
「謝らないでっ…別に責めているわけではないのよ。ただ、見ていて心配だっただけ…」
相馬先輩は否定するように手を左右に振った。
「…ありがとうございます。大とはよく喧嘩しますけど、今回は自分でも理由がよく分からないです…」
「…まあ、深く考えるより竹刀で語り合ってみたら?沖田さんと近藤くんはその方がらしいと私は思うな」
相馬先輩は優しく笑顔で言った。
やっぱり相馬先輩は私にとって仏の相馬先輩だ。
「そうですよね…その方が私らしいですよね。はい、そうしてみます」
相馬先輩にそう返事をすると早速立ち上がり、男子側の練習場所へと移動する。
そして、大の目の前で立ち止まった。
「…なんだよ?」
大が怪訝な表情で訊いた。
「…手合わせしてよ」
そう一方的に言うと、私はその場に座って面をつけた。
大も仕方なさそうに私の横に座り面をつける。
「…手加減しないぞ?」
面越しに大の言葉が聞こえてきた。
「手加減なんてしたらぶっ飛ばす」
私達はまるで試合をするような形式で手合わせを始めた。
私はいきなり全力で大にぶつかっていく。
大も同じく始めから全開だ。
でも、私も大も決してやけくそではない。
互いに一本を取らせず、一本を取るべく技を繰り出していく。
激しくぶつかり合いながらも、なかなか互いに決まらない膠着状態が続いた。
久しぶりに全力で大とやり合う気がする。
それに、自然に面の下で笑みが溢れた。
それからも、互いに一本を取れずに時間が経過していく。
始めから全力のため、スタミナの消耗が激しく、少し動きが鈍る。
それは、大も同じで、互いに始めの勢いは既にない。
すると、大が面越しに小さく笑った。
それに私も自然と釣られて笑ってしまう。
そして、互いに自然と竹刀を下げた。
「…なんだ。随分とちえらしさがやっと戻ってきたじゃねぇか?」
「…大もね。やっぱり、大はこうじゃないと張り合いがないわね」
再び、私たちは笑い合う。
そして、体育館の脇に行き、私と大は面を取った。
「…悪かったな」
大がボソッと言った。
「…私こそごめん」
私も大の顔を見ずに謝り返した。
「…少し休憩したら、もう一回やるか?」
大がこっちを見て訊いた。
その表情がいつもの大に戻っていて安堵する。
「うん」
いつも通りに戻れたのが嬉しくて、無邪気に返事をした。
◯
土曜日と同様に昼で練習を終える。
今日は昨日以上にコウにしごかれた原田は流石にぐったりしながら谷くんと帰っていった。
その後ろ姿に笑みを浮かべて、私は大とコウのもとへと駆け寄っていく。
「さあ、帰ろ?」
「おう」
大がいつもの大らしく答える。
「…なんだ?ようやく仲直りしたのか?」
コウが私たちを見て訊いた。
「…別に元から喧嘩してたわけじゃないしな」
大が恥ずかしそうにそう答えて、先を歩いていく。
私もそれを追うように歩き出した時、ふとコウが何か呟いた声が聞こえた気がした。
…でも、それに聞こえないフリをして大に追いつく。
すぐにあとからコウも私と大に追いついた。
話はすぐに原田の話になる。
コウがいじめているように見えたと大が笑う。
コウがそれを冷ややかに否定する。
私はそれに笑みを浮かべて聞く。
でも、私はその話が頭には入ってこなかった。
…さっき、確かに聞こえたんだ。
「ずっと喧嘩してくれていたら良かったのに…」
と呟いたコウの声が…




